地方にいながら東京の企業にリモート転職!
フリーランス・起業を経験して巡り合った「新しい働き方」
ビジネスを通して、生まれ育った北海道の経済活性化に貢献したい――そう意気込みを語る新岡唯(にいおか・ゆい)さんは、日本を代表する名馬が飼養されるまち、北海道・日高町門別町で牧場を営む家庭に育ちました。現在は、札幌で暮らしながら東京の企業に所属し、「完全テレワーク」というスタイルで働いています。
大学進学を機に北海道を出て、東京で人事のキャリアを磨いてきた新岡さんですが、「人事の仕事ならライフステージが変わってもずっと続けられる」という思いとは裏腹に、予期せぬキャリアの壁にぶつかることに。待機児童問題で保育園が見つからず、職場復帰の目処が立たなくなってしまったのです。同じタイミングでパートナーに札幌転勤の話が持ち上がり、2017年、札幌へUターンされました。
移住後は、育児や家族との時間を大切にしながら、自分らしい働き方を模索してきた新岡さん。めくるめく環境の変化と軽やかに折り合いをつけながら歩み続ける姿勢には、「キャリアの想定外と向き合うヒント」がたくさん詰まっています。そんな新岡さんの力強いライフストーリーに迫ります。
東京で待機児童問題を機に離職。
札幌移住後はフリーランスを経て起業を経験
北海道に移り住む前は、首都圏の企業で採用・社員教育・キャリアコンサルタントなど、人事のキャリアを積んでいました。 子どものころから実家の家業を通じて「どうやったら人が気持ちよく働けるのか」ということにすごく興味を持っていて、人事の仕事ならライフステージが変わってもずっと続けられるだろうと思っていました。
でも、2016年の出産後に子どもの保育園が見つからず、職場復帰ができなくなってしまったんです。ちょうどそのころ、夫が私の出身地である北海道で働けることになったこともあり、思い切って家族で札幌への移住を決めました。私にとっては「Uターン」という形ですね。
人事の仕事が好きだったので、札幌でこれまでの経験を活かせるような仕事を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。土日祝日の勤務がある求人や、保育料に満たない給与額の求人など、仕事と子育てを両立することがとても難しいと感じる状況でした。また、北海道の企業では人事の仕事が総務部の業務に含まれていることが多く、「採用戦略を立てる」「人事制度を企画する」という求人がそもそも少なかったのも響きました。
「手に職をつけるために人事のキャリアを積んできたのに……」とひどく落ち込む日もありましたが、気持ちを切り替え、フリーランスの外部人事として再出発しました。その後、30歳を機に株式会社イロドリトイロを設立し、人事、広報、コンテンツマーケティングといった業務を行い、2018年に「子連れワーケーション事業」をスタートさせました。
子連れワーケーションは、テレワークができる親を対象に、親の仕事中、子どもは北海道の自然を体験できるプログラムを企画、実施する取り組みです。子育てをする中で、長い夏休みに、子どもが学童と家の往復だけで終わってしまうことに罪悪感を覚えるお母さんは少なくないのでは、と思ったことが事業スタートのきっかけでした。子連れワーケーションは、親も子どももWin-Winな選択肢になるので、手応えを感じましたね。
残念ながら、コロナ禍ということもあり、現在は事業を縮小していますが、さまざまな方がたとのコミュニケーションを継続しながら、将来のワーケーションの拡大に向けた「種まき」は続けています。
もう一度、組織で働いてみたい…
自分の思いと向き合い、再就職を決意
起業後は、取引先から「こんなことできる?」と尋ねられたら「できます!」と答え、積極的に仕事を請けてきました。必死にリクエストに応えながら、できることを増やしてきた感じです。
充実した日々でしたが、ふと立ち止まって「いまの自分はどんな場所で、何がしたいのか」と考えたとき、迷いがあることに気づきました。もう一度組織に属して仲間と一緒に何かを目指すという働き方をしてみたい―—そんな想いが強くなっていたんです。
そんなとき、人材紹介からの紹介で、東京のIT企業の求人を知りました。北海道に関する業務に携われることと、「ビジネスの力で世の中を変える」「ビジネスは三方良しであるべき」というミッションに魅力を感じました。
面談ではこれまでの私のキャリアをしっかり評価してくれたのも嬉しかったですね。「色いろやってきたけど、尖った専門性がない」というのが自分の弱みだと感じていたのですが、むしろそこを評価してもらえました。2022年10月に入社し、営業やパートナーとの業務提携、オフィス設立のための準備など、横断的にさまざまな業務を行っていきます。
副業が可能な職場なので、ワーケーションを始めとしたこれまでの活動も継続していきます。どちらの仕事も、北海道の企業やユーザーが日頃感じている不便を解消するよう努めていきたいです。
ビジネスの力で北海道の課題に向き合っていきたい
移住してからは、子育てもよりのびのびできています。先日、「北海道開拓の村」という広大な野外博物館に行って、息子と栗拾いの体験をしました。息子は「栗のイガに触れると痛い」ということに初めて気付いたようです。辺りを野生のリスが走り回っていて、木の実を食べる様子も興味深く観察していました。
北海道は身近に自然があり、情操教育という点でもとてもよい環境です。子連れワーケーション事業でも感じましたが、北海道の環境を学びの場にできるといいなと思っています。
ポテンシャルも大きい北海道ですが、一方で、他の自治体が抱えている問題に先駆けて直面する「先進課題地」でもあり、過疎化と少子高齢化が特に深刻です。大学生の就職活動においても、本当は北海道に残りたい、と思っている道内の学生の中には、希望する職種によってはそれが難しい場合があります。私はさまざまな社会課題をビジネスで解決する取り組みに関心があるので、ゆくゆくは、道内の学生が首都圏の学生と同じような挑戦ができる環境づくりにも寄与できたらなと思います。
キャリアに迷ったら「辞めるか続けるか」以外に、「やり方を変える」という選択選択肢を
これまでの私のキャリアを振り返ると、待機児童問題、離職、移住、再就職の挫折、フリーランスからの会社設立……と、紆余曲折があり、さまざまな迷いを経て今に至ります。読んで下さっている方の中にも、いままさに「どんな働き方をしたらいいのか」ということで悩んでいる方がいると思います。
壁に当たったとき、私の場合は、「辞めるか続けるか」という二択ではなく、状況に応じて「やり方を変えてみる」ことで困難を乗り越えてきたような気がします。
ひと昔前と比べると、少しずついろいろなことが変わってきています。悩んだときには、いまの状況から一歩外に出てみることで、自分に合ったキャリアや働き方が見えてくるかもしれません。
ライター/北川和子
ライター