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2022.08.15 2023/02/15

進む派遣社員と正社員のボーダーレス化
「自分の強みと向き合うこと」がキャリアチェンジのカギ

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進む派遣社員と正社員のボーダーレス化 <br>「自分の強みと向き合うこと」がキャリアチェンジのカギ

近年、派遣社員の在り方がこれまでと変わってきています。「派遣社員=正社員のサポート役」に閉じた認識は、企業と労働者双方の可能性を狭めてしまうかもしれません。

「雇用形態のボーダーレス化が進んでいる」と語るのは、人材派遣事業を行う株式会社リクルートスタッフィングのエンゲージメント推進部部長・川畑美穂(かわばた・みほ)さん。派遣社員という働き方は、スキルを生かして自分らしく働くために重要な選択肢であるとともに、派遣先の企業にも多くのメリットをもたらすことも強調されています。

今、コロナ禍でキャリアチェンジを試みる人が増えています。派遣社員として働くことも選択肢のひとつとし、自分が理想とする働き方を実現させるには、何を意識するといいのでしょうか。今回は、多くの転職現場を見てきた川畑さんに、派遣社員の在り方の変化や、キャリアチェンジのポイントについてうかがいました。

活発化する転職市場。コロナ禍で働き方の見直しが進む

編集部:現在、転職市場はどのような状況なのでしょうか?

 

川畑美穂さん(以下、敬称略。川畑):企業の採用活動が活発化してきています。新型コロナウイルス感染症が第一波として大流行した2020年4月頃に有効求人倍率*が急落しましたが、その後は少しずつ回復し、2022年4月時点で1.23倍と求人数が増えてきています。

*有効求人倍率:求職者1人に対して何件の求人があるかを示す数値

 

求人・求職者数と求人倍率の推移

 

編集部:派遣社員に絞った求人状況の変化はいかがですか?

 

川畑:2020年4月以降しばらく停滞していましたが、2021年秋頃に流れが変わり、新規求人がグッと増え始めました。今は、コロナ前の水準に戻ってきています。

 

編集部:コロナ前と比べて「応募先選びの基準」にも変化がありそうですね。

 

川畑:業務のオンライン化が日本全体で一気に広がり、在宅勤務制度を導入する企業も増えたことに加え、家族や自分自身のプライベートな時間を大切にしたいという考え方の変化もあり、「働き方を変えたい」という人は増えましたね。当社全体としてこの傾向があるのですが、たとえば当社の「キャリアウィンク」という、未経験から事務職へのキャリアチェンジを応援する若年層向けの無期雇用派遣サービスでも、スタッフの多くが在宅勤務を希望していて、出社が必要な求人に比べると希望する方の割合が全然違います。

 

編集部:「働き方を変えたい」と考えるのはどの年代が多いのでしょう?

 

川畑:年齢の偏りはなく、幅広い求職者が働き方を変えようとしています。働き方への認識そのものが、全体的に変わってきているんです。これまでは派遣社員も「週5フルタイム」の勤務が主流だったのですが、最近は自分の生活に合わせて「週4、1日5時間」「週1、1日8時間」だけ働きたいなど、時間を自由に設計して働く人が増えています。
時間や場所の制約がなくなれば、家事や育児、介護など自分のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。応募先が家の近くに限定されないので、やりたい仕事の選択肢も増えます。まさに今は、自分の理想の働き方を実現させるチャンスなんです。

 

編集部:在宅勤務が浸透してきたからこその変化ですね。

 

川畑:そうですね。ひとつ事例を挙げると、大阪で働いていた男性の派遣社員が、札幌でひとり暮らしをしているお母様のために、雪かきが必要な時期に帰省したいと相談したそうです。派遣先から承諾をもらい、1月~3月は札幌からオンラインで仕事することができたと聞きました。

 

編集部:在宅勤務はコロナの収束とともに減るという声もありますが…?

 

川畑:在宅勤務を実施する企業は、今後も一定数を維持するのではないかと思います。当社の派遣社員の在宅勤務率は約5割。実はこの数値、コロナ禍で緊急事態宣言の解除など社会の動きがあっても、ここ1年で大きく変動していないんです。

採用の在り方も柔軟に。
派遣社員だからこそ「就業規則の飛び越え」が可能

編集部:働き方の多様化に伴い、派遣社員に対する採用の考え方や在り方も変化しているのでしょうか?

 

川畑:「1ポジションに対し、週5フルタイム」という、今までの考え方が変わってきています。たとえば、週5フルタイムの従業員ひとりが担当していた業務を、「週3日勤務の派遣社員+週2日勤務の派遣社員」と分割できる。

私たちが企業から求人依頼を頂き、人選が難航した際、これまでは「時給を上げる」というやり方で母集団を拡大し、ご紹介する方法が主流でした。しかし昨今では、「業務を分解してはどうか」と新たな提案の仕方も増えています。

 

編集部:派遣社員だからこそ実現できる工夫ですね。

 

川畑:まさにそうなんですよ。派遣社員に適用されるのは派遣元の就業規則なので、派遣先の就業規則に沿う必要はありません。つまり企業からすると、負担を増やすことなく、自分たちの制度を飛び越えて人材を活用できるんです。

就業規則を変えるのは、企業にとって労力も時間もかかります。派遣社員であれば、極論を言うと翌日から働ける人材も確保できるので、自社雇用と比べてスピード感が全然違うんですよ。

 

編集部:雇用の在り方が柔軟になると、労働者だけでなく企業へのメリットも多いんですね。

 

川畑:自社雇用の社員がすべての業務を担う必要がなくなり、派遣社員の特性やスキルを踏まえて業務を振り分けられるので、生産性や効率性が向上します。今まで自社にいなかったタイプの人材が集まることで、組織の多様化が進むこともメリットだと思いますね。

 

編集部:ちなみに、何か事例はありますか?

 

川畑:少し前から実施している当社の事例なのですが、生産性を高めるために、営業職の業務を切り分けて、一部の業務を短時間で働くパートタイムの方々にも担当してもらっています。子育てをしている方やダブルワークをしている方など、いまや営業職の4割がパートタイムの方々です。

勤務時間は限られていますが、一人ひとりが自分の業務に責任を持ち、スキルを最大限活かしながら期待以上の仕事をこなすため、当初の想定を大きく上回る成果が生まれることが多々あります。フルタイムで働いている従業員が、「派遣社員の方々が短い勤務時間で成果を出せているのだから、自分たちも業務を見直してみよう」と刺激を受けています。

 

編集部:となると、正社員と派遣社員の違いってあまりないような…

 

川畑:そうかもしれません。雇用形態はボーダーレスになってきています。「自分のスキルを生かしたいなら正社員」のような考え方は、どんどん薄れていくと思いますよ。

キャリアチェンジが増えている!
「自分の強み」に不安がある場合はどうする?

キャリアチェンジ実施の有無と内訳

編集部:リクルートスタッフィング様の調査で「コロナ禍でキャリアチェンジをする人が6割」という結果が出ています。この背景にはどのような要因があるのでしょう?

 

川畑:先行きが不透明な状況が続く中、勤務先への不安・不満が大きくなったことが考えられます。実際に当社の調査結果でも、転職の理由として「新たなチャレンジ」や「仕事のやりがい」などの理由が増えているんです。

 

編集部:たしかに、緊急事態宣言や外出自粛も相まって、自分の将来を考える時間は増えましたよね。

 

川畑:はい。ただ、キャリアチェンジにあたって課題を感じる人も多くいます。特に20代は、「何の仕事が自分に合うかわからない」「自分のことをどのようにアピールしたらいいかわからない」など、経験の少なさから来る不安がとても多いんです。

 

編集部:リクルートスタッフィング様では、不安を抱える求職者をどうサポートされているのでしょうか?

 

川畑:その人ならではの強みや経験を見つけ、「キャリアチェンジでどのように生かせるのか」を一緒に言語化しています。他業界・他業種への転職では、自分ひとりで強みを整理するのが難しいんです。今まで経験してきたことの棚卸しを一緒にすると、他分野でも生かせる強みが見つかります。武器になる強みが見つかれば、自信を持って転職できるはずです。

「強み」は思わぬところに潜む。
自分の中にあるワガママに向き合い、理想の働き方へ

川畑美穂さん/オンラインで取材しました

編集部:自分らしい働き方を実現させるためのポイントはなんでしょうか?

 

川畑:「自分がやりたいこと」を起点にするのがポイントだと思います。雇用形態がボーダーレスになっている今、やりたいことを実現する上で「派遣社員」は大きな1つの選択肢です。ありたい姿を探す上でも、自分が得意なことなど「強み」を理解して、生かし方を考える必要があります。社会人として複数の顔を持っていたり、プライベートで培った力を仕事に生かせたり、人は自分が思っている以上に強みを持っています。たとえばママであれば、家事や育児の中でマルチタスクが身に付きますし、保護者同士の会話やご近所付き合いでコミュニケーション能力が磨かれる。子どもへの動機付けや相手の心を読む力も、立派な強みです。

 

編集部:やりたいことが見つからない人は、どうしたらいいのでしょうか?

 

川畑:「自分が好きなこと」「自分が得意なこと」「自分が大切にしたいこと」の3つを繰り返し行き来して考えると、目指したいキャリアの方向が見えてくるはずです。あとは目の前にあることに一生懸命取り組んでいくことも大事です。そうするとできることが増え、やりたいことも自然と出てくるようになります。

時間と場所の制約がなくなってきている今は、自分らしい働き方を見つけるチャンスです。それぞれが持つ働くことに対する「こうでありたい」という考え方や気持ちを、押さえつける必要はありません。自分の中にある「ワガママ」に、もっと耳を傾けて、向き合ってみてもいいと思います。リクルートスタッフィングとしても、自分らしい働き方が実現できるよう、全面的にサポートいたします!

 

編集部:働き方に悩んでいる人の背中を押す力強い言葉ですね。本日は、お忙しいところありがとうございました。

川畑さんのお話は、私たちにとっても、派遣社員の新たな側面を知るきっかけになりました。「雇用形態はボーダーレスになっている」。インタビューが終わっても、この言葉が頭の中で響き続けています。雇用形態に縛られず、個々がより自分に合った働き方を選べる。そんな社会が近づいていることを考えると、ワクワクしてきますね。

プロフィール

川畑 美穂さん

株式会社リクルートスタッフィング・エンゲージメント推進部部長

株式会社リクルートスタッフィング エンゲージメント推進部 部長
2003年にリクルートスタッフィングへ入社し、事務職領域のジョブコーディネーター及び派遣営業を経験。その後、全社戦略推進や営業育成を担う事業推進部のマネジャーを務め、2021年より部長に就任。未経験から事務職へのキャリアチェンジを応援する派遣サービスをはじめ、ZIP WORKやシニア派遣、障がい者雇用など多様な働き方を推進している。

文・インタビュー:紺野天地

ライター

紺野天地

ライター、文筆家

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