働き方がしっくりこない……? その違和感の正体は「なんとなく育休」「なんとなくワーママ」かもしれない。【前編】
新型コロナウィルスの流行により、働き方が急速に変わろうとしています。LAXICでは4月と5月に在宅勤務に関する座談会を実施。その中で出た、「家族と過ごす時間、子どもと過ごす時間が増えたことをきっかけに、これまでの働き方を見直したくなった」という意見に、一同うなずきました。しかし、目の前にある日々のことで精一杯で、どう変えれば? どう見直せば? というところまで、じっくり考える時間が持ちづらいのも実情です。「なんとなく今日も終わってしまった……」という日々から脱するには、どうすればよいのでしょう。
“なんとなく育休”をなくしたい! という思いで育休コミュニティ「MIRAIS」を立ち上げた栗林真由美さんは、「自分のテーマにとことん向き合うことが、“なんとなく”から踏み出すためのキーになる」と語ります。栗林さんは、LAXICでは、2015年以来、5年ぶり、2回目のご登場。現在は2人の娘さんがいらっしゃる栗林さんですが、当時はまだ「MIRAIS」を立ち上げる前の第一子の育休中でした。
今回のインタビューでは、「MIRAIS」の運営を通して、ご自身の経験や、多くの育休女性と関わる中で得た、自分らしい生き方と向き合うためのヒントについてうかがいました。
2015年の栗林真由美さんのインタビューはこちら
なんとなく過ぎていく毎日に疑問を感じたら、「自分のテーマ」を見つけるチャンス
編集部:栗林さんが2018年に立ち上げられた育休コミュニティ「MIRAIS」は、“なんとなく育休”をなくしたいというミッションの元、立ち上がったとうかがいました。
栗林真由美さん(以下、敬称略。栗林):「気づけばただなんとなく時が過ぎて今日が終わっていた」という育休を“なんとなく育休”と呼んでいます。貴重な休業時間だからこそ、「なんとなく」過ごすのではなく、自分を見直す時間にすれば、育休は新しい人生のスタートになる。そんな思いで、育休中の方が自分のテーマを持って活動ができるプラットホームとして「MIRAIS」を立ち上げました。
編集部:「なんとなく過ぎる日々」には、育休を終えた今でも身に覚えがあり、ドキリとします。
栗林:育休は「なんとなく」を脱して自分のやりたいことを見つけるひとつのきっかけにすぎないので、育休中の方に限らず、多くの方に共通する課題だと思います。実際に「MIRAIS」にも、「育休は終わったのだけど参加できますか?」というお問い合わせもいただきます。
編集部:子育てと仕事を両立する毎日で、忙しくはあるのだけどモヤモヤが蓄積されているように感じるのは、もしかして日々が「なんとなく」終わっていくからなのかもしれません。「なんとなく」をやめるには、さまざまな活動に参加することが大事ということですか?
栗林:いえ、そういうわけではないのです。大事なのは、「自分のテーマ」に沿って動くこと。私は、「自分の本当にやりたいこと」を「テーマ」と呼んでいます。たとえば、毎日イベントやセミナーなどをいっぱい入れて、それだけで満足してしまっている状況も“なんとなく育休”です。闇雲に動いていても、得られるものは意外と少ないですから。
編集部:なるほど。「自分のテーマ」を持てばおのずと「なんとなく」から踏み出すきっかけになるのですね! 限りある時間が有意義な時間になりそうです。
栗林:テーマがないままなんとなく過ごすと、変化に対して、自分の気持ちが揺らいでしまうことが多いのですよね。モヤモヤを脱出するためにも、「テーマ」を見つけることが重要です。「毎日が楽しければいいや」と育休を過ごしていた友人から、職場復帰後に、「仕事に追われてつらい。こんなはずじゃなかった」という話を聞いたことがあります。彼女はまさに“なんとなく育休”を過ごしていたと思うのですが、きっと環境が変わる前に、「自分にとって大事なもの」に向き合っていれば、職場復帰後の気持ちも変わっていた気がするのです。
編集部:確かに自分にとって大事なものを核にして動くことができれば、環境が変化しても自分の気持ちをぶらさずにいることができそうです。
栗林:大事なものが明確であれば、ブレませんよね。
本当にやりたいことを聞かれる機会はなかなかない。だからこそ、自分の「テーマ」を決めてみよう
編集部:育休中ではなくとも、今すぐ「テーマ」を決めたいと思いました! でも、自分の人生の中で、そんなに大きなものが見つかるか不安もあります。
栗林:「テーマ」は、自分が本当にやりたいことであればなんでもOKです。私が「テーマを決めよう」と提案すると、バリバリ仕事をするためのものだと誤解されることもあるのですが、たとえば、「子どもの成長にしっかり向き合う」でもいいんです。そう決めれば、なんとなく子どもと遊んで過ぎた日が、しっかり子どもと向き合った充実した日に変わります。それは、その人の行動の軸になっていく大事なものです。
編集部:「テーマ」は、すぐに見つかるものでしょうか?
栗林:「MIRAIS」は、4月〜の前期と、9月〜の後期、2期に分けて参加者を募集していまして、コミュニティに参加すると、まずは1ヶ月間じっくり時間をかけて、全員が「テーマ」を決めます。やりたいことが明確な状態で参加される方のほうが少ないです。
編集部:「コミュニティ」といっても、いわゆるサークル活動ではなく、しっかり自分に向き合う時間になるのですね!
栗林:「テーマ決め」が「MIRAIS」のメイン活動です。テーマが決まればあとは、それぞれ自分のテーマに沿って、運営活動に加わったり、仲間を募って企画を実行したりなど、各自のペースで自由に参加していきます。
編集部:それにしても、テーマを決めるだけで1ヶ月とは。やはり時間がかかるのですね。テーマがすぐに見つからないのは自分だけじゃないのだとほっとしました(笑)
栗林:全員、喧々諤々、ゆれにゆれながら、考えています。希望者は、メンバー同士で自分の考えているテーマを見せ合いながら考える機会もあるのですが、「それは本当にやりたいことなの?」「なんでそれがやりたいの?」など詰め寄られますから(笑)
編集部:そこまでしっかり考えられたものだからこそ、テーマが自分の軸となり、迷ったりブレたりしなくなるのですね。
栗林:ふだんの会話の中で「あなたの本当にやりたいことは何?」なんて聞かれることは滅多にないですよね(笑)。会社員の方は、目標設定面談などの機会もあるかもしれませんが、そこで聞かれるのもあくまで「会社の中にいるあなた」のこと。肩書きや所属をとっぱらっての「素の自分」のテーマに向き合うには、意識的に機会を作らないと、なかなか取り組めないかもしれませんね。
編集部:すぐには答えがでないかもしれないけれど、自分の「テーマ」は何かを真剣に考える機会を作ることが大事ですね。
栗林:暮らしの中に何か違和感があったとしても、スルーしながら生活もできます。しかしその違和感の中には、本当の自分が隠れているはず。「このままでいいんだっけ? なぜ違和感を感じるんだっけ?」と向きあう中で、「自分は本当はこうしたかったんだ!」というものが出てくると思います。
子どもがいるからこそ、自分の「テーマ」はシャープになる
編集部:栗林さんご自身は、2人のお子さんの育児をしながら、企業に勤め、さらに「MIRAIS」の運営もされていて、かなり精力的に動かれています。栗林さんのようにパワフルに、育児もしながら自分のやりたいもできるのは、一部のスゴイ人だけなんじゃないか、と尻込みをしてしまうのですが。
編集部:栗林さんご自身は、2人のお子さんの育児をしながら、企業に勤め、さらに「MIRAIS」の運営もされていて、かなり精力的に動かれています。栗林さんのようにパワフルに、育児もしながら自分のやりたいもできるのは、一部のスゴイ人だけなんじゃないか、と尻込みをしてしまうのですが。
栗林:私は、子どもが生まれて、むしろ、やりたいことをしぼって、シャープにすることができましたよ。
編集部:えっ! 育児がプラスオンされた分だけ、増えた量をこなしているのかと思っていました!
栗林:確かに子育てをしながらだと、使える時間は限られてきます。だから私は、「制約があってもやりたいことだけ」を見つめて、やるようになったんです。本当にやりたいことにだけ集中すると、体験が濃くなり、本当の自分が研ぎ澄まされていくように感じます。育児をしていなかったら、私はやりたいことが多過ぎて絞りきれなかったかもしれないですね。
編集部:なるほど。制約があるからこそ、本当に自分がやりたい「テーマ」が見えるのですね。
栗林:「子どもがいるからできない」と思っていることは、もしかして、本当にやりたいことではないのかもしれないですよね。そうやって、育児がきっかけで、自分に問いかけられることもあります。
編集部:確かに。本気でやりたいことであれば、制約があってもできる方法を考えるのかもしれません。
栗林:子どもは「本気かどうか」はすぐ見抜きますよね。私は、子どもの前では本気の姿を見せたいと思って、自分の仕事や、ライフワークである「MIRAIS」の運営に、全力で取り組んでいます。本当にやりたいことじゃないと、できないですね。
編集部:ありがとうございました。後編では、ご自身も、ライフワークと仕事を両立させつつ、「MIRAIS」の中で多くの会社員ママたちの課題にも関わってきた栗林さんに、会社との上手な付き合い方のヒントをおうかがいします。
栗林さんはワーママ会社員でありながらライフワークとして「MIRAS」の運営をされているパワフルな方。しかし、やりたいことをとにかくなんでもやるというのではなく、自分の「テーマ」にしぼっているからこそ、パワフルに活動ができるのだと感じました。「なんとなく育休」「なんとなくワーママ」を卒業すれば、そこから自分自身を主体とした未来が始まるというのが栗林さんのご意見。子どもがいるから諦めるのではなく、子どもがいるからこそ自分の本当にやりたいこと=テーマと向き合うことが、闇雲な不安や闇雲な行動から抜け出す第一歩なのかもしれません。
後編では、会社と自分を両立させていくためのヒントをおうかがいします。後編もぜひご覧ください。
プロフィール
栗林 真由美さん
育休コミュニティ「MIRAIS」代表
1982年生まれ。夫と2歳と6歳の娘さんの4人暮らし。
IT事業会社に勤務するかたわら、1人でも多く有意義な育休を過ごせるよう、産育休者を対象とした育休コミュニティ「MIRAIS」を主宰。その他講演や執筆活動などを通し、「あきらめない女性を増やしたい」という自身の想いを実現すべく精力的に活動中。
文・インタビュー:あさのみ ゆき
ライター