育休復帰率100%企業の「男性育休」のリアル
風通しのいい環境を醸成する秘訣
数々の働き方改革を実施し、経済産業省からの「ダイバーシティ経営企業100選」、厚生労働省からの女性活躍推進法に基づく「えるぼし」企業認定などを受けるほか、育休復帰ほぼ100%を誇る株式会社日立ソリューションズ。その100%の中には、もちろん男性社員の育休取得も含まれます。
男性育休といえば、世の中での取得率は未だ2%台。「男性が育休を取れることも知らなかった!」という男性も多いのが実情です。では実際のところ、男性が育休を取得しようと考えた場合、どのように進めるのがいいのでしょうか?
今回、インタビューにご協力くださったのは、男性として4ヶ月の育休を取得した針生健さんと、直属の上司である八島高志郎課長、部を統括する水森源宏部長。御三方にそれぞれ「男性育休」を振り返って、実際のところは?社内の風土は? 今後は? など、リアルな話を伺いました。
「育休」の思いは早めに上司に伝える
スムーズに育休取得の計画・準備を
4ヶ月の育休を取得された針生さん
編集部:まず実際に育休を取得された針生さんに伺います。育休をなぜ取ろうと思われたのでしょうか?
針生さん:妻は同じ会社の同期で、働いています。当初、里帰り出産を考えていましたが、妻の実家は介護が必要な状況だったのと、自分たちの力で育児をしたいという思いもあったので、私も育休を取得しました。昨年9月〜年末までの4ヶ月間お休みして、年始から職場に復帰しています。妻はこの4月に復帰しました。
編集部:育休を取れることを知らない男性も多いようなのですが、針生さんは制度として取れることをご存知だったんですよね?
針生さん:実際、取得していた人は身近にいませんでしたが、育休だったり、介護だったり…ダイバーシティ関連の情報が社内の情報として配信されていたので、申請すれば取得できるだろうなと思いました。
編集部:取得すると聞いた時、直属の上司である八島さんはどう感じられたんでしょうか?
八島課長:かなり早い段階で相談してくれましたので、実際の育休まで8ヶ月ほどあり、準備期間としては十分でした。あとは単純に「おめでとう」と喜ばしく、「彼がいなくなる間どうなるのか…」という不安はあまりありませんでしたね。
編集部:部長の水森さんはどう思われました?
水森部長:私は取得の2ヶ月前に聞きました。自分の部下としての男性育休取得は初めてだったので、「よく決心したな」と思いました。仕事のことは不安もありましたが、計画的に引き継ぎなど準備を進め、比較的スムーズに進んだかなと思います。
編集部:針生さん、実際に復帰される前の思いは?
針生さん:休んでいる間にも仕事は続いているので、正直、取り残された感じもありました。でも育休中も自宅で職場のメールは見られましたし、上司とも相談することができました。あとは、復帰の1ヶ月前に「復職前セミナー」に参加できて、そこで不安はなくなりました。
編集部:「復職前セミナー」は、どんなことをされるんですか?
針生さん:社外の講師を招いて、育休取得者とその上司が一緒に参加するんです。途中では、上司と育休取得者は別の講義に分かれ、育休取得者には「育休を取る上での不安の解決法」「復帰後どうすればいいのか」、上司には「育休取得者への声掛け」などのレクチャーがありました。
編集部:レクチャーにあった、上司側が気をつけないといけないことはどんなことなのでしょうか?
八島課長:不安に思っているところを払拭してあげたり、コミュニケーションを密にするよう心がけたり、声のかけ方などを学びましたね。
編集部:実際に育休を取得して、子育ての面ではどうでした?
針生さん:よかったですね。妻と2人、何も知らない育児初心者同士ですが、日に日に育児に対する理解が高まり、育児レベルが同じように上がっていく。わからないことがあれば、逐一お互い相談ができましたし、一緒に成長することによって、お互い安心して子供を任せられるレベルになれたことが良かったです。
編集部:今もパートナーがいなくても、不安なくお世話することができるわけですよね。
針生さん:つい先日も妻が実家の方に行っていたので、ミルクあげたり、オムツ替えたり寝かしつけたり‥その時も不安はありませんでしたよ。
編集部:赤ちゃんの時は特に「育児=ママ」になりがちだと思うのですが、針生さんはご自身が主体的にお世話されていらっしゃいますよね。
針生さん:育休最初の頃は、妻は自分自身の体を回復しなければいけないときなので、自分が主体となってやっていました。その頃は逆に「自分の方が得意なのではないか…」と思っていましたし(笑)、「自分なら泣き止ますことができる」という自信もありました。
編集部:そんな戦力になるご主人がいらっしゃると、ご主人の復職でパートナーの負担が増える感覚があるでしょうね。
針生さん:私と分担できず、妻の負担が増す不安はあったとは思います。
やるべき仕事はやって、残業は減らす
復職後は特に「メリハリを持って働く」マインドが大事
針生さんとお子さま
編集部:仕事には違和感なくスムーズに復職ができたのでしょうか。
針生さん:新しいプロジェクトに配属されて仕事内容も一新しましたが、1週間で仕事の感覚を取り戻せました。
八島課長:復職のタイミングと同時期に新しいプロジェクトが始まったので、そちらをメインでお願いしました。「最初の1週間は戸惑った」と本人は言っていますが、こちらとしてはほとんど感じず、何の問題もなく復職できたと思います。
編集部:復職後、上司として気をつけたことはありますか?
八島課長:最初に本人の意向を確認したところ、残業については「自分でコントロールする」とのことだったので、あまり気にすることはなかったです。それぞれの性格にもよるのでしょうが、本人がきちんと報告してくれるので、そのあたりは配慮しなくても大丈夫かなと。
編集部:社内でも「働き方を変えていこう」という風土はあるのでしょうか?
八島課長:仕事としてやるべきことはやらないといけないですが、メリハリをつけて自分でコントロールしている人が多いですね。組織としての制度も後押ししているところはあると思いますが、社員の意識も高いように思います。
編集部:復職されてから残業はされていますか?
針生さん:意識的に残業を減らそうとしているので、育休取得前よりも減りました。育休を取ったことで、丸一日、子供を見る大変さもわかっているので、なるべく早く帰って妻の助けになりたい。今日も早く帰って「お風呂に入れなきゃ」って思います。
編集部:パートナーが復帰されてからの分担については相談されていますか?
針生さん:今はまだ細かいことは相談できていませんが、朝は私が保育園に送って、妻が夕方迎えに行って…と分担できるところはしていこうと思います。
編集部:育休明けの女性で、当初思っていたように働けなくて、復帰後にやめてしまうケースも多いのですが‥そのあたり、パートナーのキャリアについてはどうお考えですか?
針生さん:妻は専業主婦で家を守るというよりは、外でバリバリ仕事をする方に才能を感じているので、そこはどんどん活躍してもらいたいです。同期っていうのもあって、お互いの忙しさとか仕事の内容は理解しているので。そこはお互いに思いやりを持って、フォローし合えればと。
編集部:実際取得してみて、周りの男性に育休取得を勧めますか?
針生さん:家庭の事情がそれぞれおありでしょうが、取ろうか取らないかで迷っているなら、取得した方が良いと思います。
急速に進む「働き方改革」に、上司として
どのように「風通しのよい」環境を整えていくか
左から)八島さん、針生さん、水森さん
編集部:今後、介護や自分の病気などでいろいろな制約を抱えながら働かなければならないケースが増えてくると思うのですが、そのあたり会社として、上司としてどのように対応したいとお考えですか?
水森部長:よく言う「風通しのいい職場」という表現があると思いますが、仕事上の情報共有や“ほうれんそう”だけでなく、例えば「子育て」「介護」などそれぞれの家庭の事情までも相談できる状況、別の意味での「風通しのいい職場」でありたいと改めて思いました。それにはもっと自分の話をするだとか、話を聞く姿勢をどんどん作っていくなど、していきたいですね。
八島課長:自分でそんなに意識をしているわけではないのですが、比較的気軽に相談できる環境を作っているつもりです。今回も早めに相談してくれましたし、そのおかげで準備期間を長く設けられました。あとは会社にはいろんな制度があるので、育休や在宅勤務など自分も制度を活用して、それぞれの働き方に合わせてやっていけるよう、アドバイスしたいなと思っています。
編集部:社内でも在宅勤務をする方は多くいらっしゃるのでしょうか。
八島課長:結構いますね。最近制度が変わり、タイム&ロケーションフリーワーク(サテライトオフィスなどで仕事ができる制度)ができたので、利用者は増えています。管理職でまさに子育て中の人で、週に2回は家で仕事するという例もありますし。男女ともに使っていますね。
編集部:大きな会社だと、制度はいろいろあっても、使う風土がないという現実があります。上司の方が「風土が大切」「個人の事情を聞くことが大切」とおっしゃっているあたりが良いですね。
針生さん:確かに、風通しのいい職場です。八島さんが月1回、面談というか雑談でもいいから話そう、という機会を設けてくれています。その場があったから、今回の育休も切り出しやすかったです。以前から仕事以外の話も面談でできたので、良い関係が築けていたのでしょうね。
編集部:八島さんは、なぜ月1回の面談をされているのですか?
八島課長:会社で実施している管理職向けのダイバーシティセミナーなどを受けていて、自分でも気づきがありまして。期に1度の面談は“制度的”にあるのですが、月1回くらいは気軽に話せる環境を意識的に作りたい、という思いでやっています。会議室を予約しておいて、必須参加ではなく、話したい人が予約を入れる…というラフな感じで。ひと月に5〜6人、仕事の話だけではなく、プライベートな話とか仕事にまつわる悩みごとなど話しに来てくれます。
編集部:男性が多い職場だと、男性が育休を取得するということは言い出しにくい場合もあるのかなと思うのですが。
八島課長:実は、彼は子どもができたら育休を取るだろうなと思っていました。パートナーに対してすごく優しいので。
針生さん:一緒に働くメンバーに既婚者や子どもがいる人が多かったので、そういう意味では言い出しやすかったです。男性が「子どもの熱で」とお休みするところを見たこともありましたからね。
編集部:男性も子どもの熱で休む環境が当たり前にあるのはいいですよね。
水森部長:結構多いですよ。我が家は妻も働いているので、車で病院に連れていく時は私も休みます。
編集部:上司の方が共働きの大変さを身をもって経験していることも、理解や風土につながっているのですね。みなさま、ありがとうございました。
男性育休のご本人のお話をお伺いすることは多いのですが、実際の上司の方も含めたリアルなお話を伺うことはあまりなく、とても貴重な機会でした。今後の日本を取り巻く環境を考えても、育休だけでなく介護や病気と付き合いながら働くことは目に見えています。その時になって急に環境は変わりません。今ある制度を利用しながら、多様化に向けて、組織の中でそれぞれが適応力をつけていかなければならないのだと感じました。
プロフィール
針生 健さん
八島 高志郎さん
水森 源宏さん
文・インタビュー:インタビュー(宮﨑 晴美)・文(飯田 りえ)
ライター