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2016.08.31 2023/02/15

プロミュージシャンからコンサルへの転身、大学講師…
多彩なキャリアを持つ男性が斬る「女性活用」の落とし穴

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プロミュージシャンからコンサルへの転身、大学講師…<br>多彩なキャリアを持つ男性が斬る「女性活用」の落とし穴

プロのミュージシャンからビジネスコンサルタントに転身、現在はPwCコンサルティング合同会社 パートナーであり、大学・専門学校での教師活動、地方創生集団one+nationの設立メンバー。そして、女性の働き方を応援するオクシイ株式会社 Work Stylistという肩書も持つ松永エリック・匡史さん。「なぜ、音楽業界からコンサルに、そして女性の働き方支援を?」という素朴な疑問から始まり、今、国を挙げて進められている「女性活用」には何が足りないかなど、多彩な経歴を持つ松永さんならではの視点を伺いました。

音楽業界出身者の素朴な疑問
「女性を活用する」の根本的な間違いはここだ

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ラシク編集長・宮﨑(以下、宮﨑):プロのミュージシャンからビジネスコンサルタントになり、働く女性を支援するようになったのはなぜですか?

松永エリックさん(以下敬称略、エリック):すごくシンプルなことなんです。音楽業界は、実力社会。努力と才能、そして運があれば食べていけます。業界では当然のごとく、たくさんの女性が活躍しています。女性は感性が豊かで、困難を耐え抜く忍耐力もあり、きちんと仕事をやり切る力があるんですよね。

僕はミュージシャンを辞めてから大学に行ってビジネスの世界に入っていったんですが、まず女性が少ない事に驚きました。そしてもっと驚いたのは優秀なのに結婚するとほとんど辞めてしまうことです。企業ってこう言うものなのかなあと思ったのですが、その後、米国の企業に転職してみると役員クラスにも沢山女性がいるんですよ。外資系企業でも状況は同じで、海外では女性役員がいるのに日本には女性の管理職はほとんどいないことが、ずっとおかしいと思ってきたんです。「当たり前のことができていないよね」と。だから当たり前のことをしなきゃ、と思い女性の活躍を支援する様々な取り組みに関わるようになったんです。

宮﨑:女性が男性と同様に働くことは本来当たり前のことであるはずなのに、「女性活用・活躍」という言葉が叫ばれすぎて、「活躍とか言われたくない」と感じる女性たちは多いようですね。

エリック:「女性を活用しなきゃ」は間違いなんですよ。「実力がある人を男女で差別しないで活用する」というのが正しい在り方だと思います。企業にとって社員は宝です。優秀な社員を登用することは会社にとって基本的な事。もし目を瞑るなら、それは経営者の怠慢です。でも一般的には、「女性を活用しよう」とワーキンググループを立ち上げ、女性のリーダーをつけ、イベント的な会合を定期的に行う。そこに経営者は参加しないみたいな感じではないでしょうか。グローバルで勝ち残らないといけないのに、そんなのんきなことをやっている場合じゃないよ、と思います

宮﨑:本当に意識して取り組んでいる経営者は少ないですよね

エリック:なぜ日本で女性が活躍しにくいのか。欧米との違いの1つに、経営者が業務プロセスに無関心なため、業務がプロセス化・可視化されていないということがあります。理由は、日本独特な“阿吽の呼吸”的なコミュニケーションや仕事の依頼の仕方に問題があるんです。これは日本人だけで従業員が構成されている事に加え、かつての永久雇用の幻想から逃れられず、人は辞めないという前提で業務が組まれているからなんです。国籍が違えば曖昧なコミュニケーションでは誤解だらけになります。だから業務をきちんと定義し可視化して評価しないと業務が回らないんです。ある人に任せ切って、その人が辞めてしまうと業務が混乱するような業務設計は海外ではありえない。

でも、日本も終身雇用が崩れてきて、若者を中心にどんどん辞める時代になってきました。会社の経営もグローバル化の波の中で外国人が多くなってきました。時には海外企業に買収され上司が突然、外国人になることも。そうなってくると、仕事のやり方自体を見直さないといけません。同じ時間に会社に通って、仕事がないのに上司が帰らないと言う理由で遅く帰宅する必要もない。子育て中の人とって帰宅時間は厳しい現実ですからね。

なぜ結婚したり出産したり、育児があると女性が辞めなければならないのでしょうか?子供が生まれると時間の制約がどうしても増えてしまいます。子供に何かあったら帰らなければなりません。9時から17時に必ずオフィスにいなければいけないなんてナンセンスです。ここで僕が言いたいのは、働き方は時間からパフォーマンスの時代になるべきだということなんです。パフォーマンスとは、何時間働いたではなく、どんな仕事でどんな成果を出せたかと言うことです。保育園の送り迎えがあって少し早く帰らなければいけなくても、午前中の会議で良いパフォーマンスを出せば問題ないはず。そもそも能力に差があるのに働く時間が同じというのも、おかしな話です。例えば、あるプロジェクトを左右する重要な会議があるとします。その時に会議室に座っていることには何の価値もありません。もしワーキングマザーがビデオ会議や電話会議で会議に出席し、価値ある発言をしていればその場にいる必要はないんです。もっといい仕事をするために、優秀なワーキングマザーが出席しやすい時間に合わせて会議を開いたり、テレビ会議にしたりという柔軟性があるべきなんです。

ワークスタイルの改革は、難しく考えてはいけない。ただ、より良いパフォーマンスを出すために、どうすればいいのかを考えた結果と考えるべきなんです。そのためには付け焼刃の改革では無理で、業務プロセスを考え直すだけではなく、既存の評価体系を考え直すことも大切ですね。

業務のプロセス化・可視化は人材活用に不可欠
「ジョブディスクリプション」はなぜ大事なのか

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宮﨑:「ジョブディスクリプション」(職務記述書、従業員の職務に関する責任や権限、職務の難易度、必要な能力や資格、経験年数等の詳細を個別に定義し、書面化したもの)が日本にはないと言われますが、それをもっと厳密に作ることで、女性の働き方というのは解決できるのでしょうか。

エリック:ジョブディスクリプションを作るのには順番があります。まず業務を見直すために、業務フローを理解しなければいけません。業務の流れをきちんと把握することが必要。流れが分かったら、それぞれの個別の作業を誰が分担するかを決める。その時、分担した作業をどこまでの深さで作業するのか、どこまで責任があるのかを明確にしなければならない。作業の成果と評価も連動しなければいけませんね。これを人の単位でまとめたのがジョブディスクリプションのスタートポイントになります。

多くの日本の会社はジョブディスクリプションがないのではなく、作れないんです。これは理解しないといけない。その根本的な問題は先ほど申し上げた時間の働き方と業務プロセスに無関心な経営者の問題です。

現実、海外ではどんどんアウトソーシングが加速していって、プロはプロに任せろとか、業務のロボット化の議論も出ていますよね。ロボットが人間の仕事を奪ってしまうのではと言う極論も出てきています。しかし、典型的な日本企業のように業務のプロセスが明確になっていないと、実はどこをロボットに任せればいいかも分からないんです。逆に言えば、自社でやるべき仕事とそうでない仕事(外部に委託しても問題のない仕事)がわからないと言うことは、会社の本当の価値がわかっていないと言うことに等しい。

宮﨑:日本は1つの仕事を「みんなでやる」という雰囲気が強く、誰の成果かが分かにくいところがありますよね。それが特定の人の活躍を阻んでいるところがある気がします。

エリック:そうですね。そしてもう1つジョブディスクリプションのすごく大事なところは、キャリアパスの指標になる点です。例えば最初は基本的な業務から始まって段々責任ある仕事(例えば管理職)をするようになっていくと、ジョブディスプリクションの内容が変わり報酬も増えていくわけですよ。すごくシンプルに、今あるディスクリプション、次に目指すディスクリプションというのが頭にあれば、「ここをどう埋めていくか」というのが自分の成長領域であって、キャリアパスを考えるに当たって強固な土台になるわけです。

日本ってキャリアパスの考え方があまりなくて、取りあえず入社したらジェネラリストになって、社内MBAがあったら行けばという感じ。かつては終身雇用制が当たり前だったので、いい学校を出ていい会社に入ればいい生活ができるという、あいまいな流れに乗ろうとしている。いい会社ってなあに?っていうと、みんな「安定」って言うんですよね。高度経済成長時代の一億総中流意識がまだ生きている。安定ってどういう会社かっていうと、「大きな会社」って言うんです。でも、かつてそう思われたところが瓦解しまくっていて安全でも何でもありません。日本の雇用って基本的に会社都合で支えられているんです。会社が例えば悪いことをすればそのあおりを社員が食らってしまうのが日本です。欧米は逆なんですよね。自分がいて自分の実力がお給料に影響してくる。キャリアパスは自分で考えるのは当たり前、だからどんなスキルをつければいいのかは自分できめて自己投資して伸ばしていく。個人のパフォーマンスがお給料に直接反映される「成果主義は怖い」っていう人もいますけど、僕は逆だと思っているんです。やることが明確なのと明確じゃないのとでは、どちらが安心ですかと。

自分のキャリアは自分で切り開く、会社の都合に左右されるのは安定じゃないし、多分若者たちもそれを感じ始めていて、働き方が変わってきているんじゃないかと思います。

宮﨑:感じている人と感じていない人がいますよね。

エリック:僕は大学や専門学校で経営学やグローバルリーダーシップマネジメントを教えているので感じるのですが、みんなインターネットに溢れる情報の波におぼれまくっている。自分で判断できなくなるんですね。結局最後は就職サイトのランキングに頼ってしまう。ただ、真面目に考えている学生は増えてきていると感じています。今の学生は真面目ですから、教員としての責任は重いと自分自身感じています。

職場復帰までにもっと学べるシステムを
色々な人や機会に出会って自分の可能性を俯瞰してみて

エリック:産休育休も、「何のために復職するのか」というのが大事なんですよね。僕は実は、産休育休を取った人を全員復職させるのが必ずしも正しいとは思っていないんですよね。復職する大前提は、会社にとって価値がある人材になっているか。

そういう意味で発想の転換なんですけれど、産休育休を取っている間の時間も、もっとうまく活用すべきだと思っています。復職までの時間で自分自身を見直し、学び、さらに価値ある人材になる時間ととらえる。前いた会社に復職する必要はないんです。時間を活用し、新しいチャレンジをしてもいい。キャリアパスで大事なのは「常に学ぶこと」だと思うんです。

一番よくないのは、「ただ悩むこと」なんです。悩むことと学ぶことって、精神衛生上は学ぶことの方が絶対いいんです。学べば、実力もつき人材としての価値も上がってくる。それなのに皆さん、悩む方向に行ってしまう。1年間産休育休で休んでいたからって、なくなるものって何なんだろうと。仕事のセンスとかはなくなるものじゃありませんよね。と考えると、復職までの間にもう少し学びの機会があるといいですよね。女性にとってもその1年間を負としてとらえるのではなく、闘いに備えるための時間であってほしいと思います。復職までの時間、色々な人や機会と出会い、自分にはもっとこんなこともできるかも!?と気づけるような考え方や仕組みがまだまだできていないと思いますね。

「女性」をくくり過ぎた議論は不毛
キャリアは人それぞれ、いろいろでいい

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宮﨑:3~4年前までは育休の間のコミュニティって子どものための場しかなかったんですけれど、最近、育休中のママが学ぶためのコミュニティというのも増えてきています。そういう場に行っている人は、働くということについて産育休中にすごく考えて、同志を求めています。一方で、育休取得が当たり前になり、何となく復帰して、復帰した後に悩むという人も多いようです。

エリック:コミュニティはとても大事です。ただ、どのコミュニティに属するかをきちんと考えないと逆効果になりかねない。よく行われる女性活用のイベントは、概してピカピカの活躍している女性が登壇することが多い。大学も所属していた企業もいわゆる一流の「ピカピカの」女性たち。そんなイベントで参加者の人から質問が出たことがあるんです。「私は中卒で、みなさんたちのように学歴も素晴らしい社歴も特殊な技能も持っていない。私はどうしたらいいんでしょうか」と。その時、「女性」というキーワードが大きく、くくり過ぎているなあと思ったんですよ。成功した女性のイメージが先行しすぎているんじゃないかと。女性のキャリアのために登場してくる女性たちってみんなピカピカ。もちろん皆素晴らしい方たちで僕もインスパイアされることが多いんですが、女性の働き方全体を、彼女たちの意見だけで考えることはできません。

また、キャリアに応じて色々な職の選択肢があると思うんです。色々なバックグラウンドとキャリアがある中で、次に何を勉強すべきかは人によって全然違う。ワードを勉強する、資格のための勉強をする…その中の一つとしてMBAもあるんでしょうけど。とりあえずMBA、少しでもスコア高いところを、というだけでは、取っただけで終わってしまいますよね。また、魅力的な職種、色々なキャリアを紹介するような場がもっとあっていいと思います。

すごく極論を言うと、人のキャリアって最後は「どう死ぬか」だと思うんです。人生を中長期の視点で考えて自分の価値観と向き合うことがすごく大事趣味、仕事、家族があってその中でそう動くかって、もう、好みの問題なんです。とことん趣味にこだわっても、仕事にこだわっても家族優先にしてもいい。自分の価値観に、うそをつかずにキャリアプランを考えていくことが大切です。

とにかくシンプルに「憧れの人」を持とう
憧れへの好奇心が人を前向きにする

エリック:もう1つ、僕はすごく「ロールモデル」が大事だと思っているんです。「錦織圭になりたい!」「マイケルジョーダンになりたい!どうすれば、こんなに素晴らしい人間になれる?」と関心を持って調べたり、真似て努力して進んでいく。ロールモデルはやる気の原動力にもなる、だから自分の憧れの棚卸をするのがとても大事だと思っているんです。ロールモデルにも色々な分野の色々タイプの人がいるはず。だからこそ、なりたいロールモデルを分析していくと色々見えてくるんです。さりげない知性とか、圧倒的にすごい実力とか、グローバルとかロジカルとか、モテるのにがっついていないとか(笑)。これをやっていると、自分が目指したいスタイルが見えてくるんです。

僕は女性はもっと自分にとってのロールモデルを持つべきだと考えています。だから、たくさんのロールモデルに出会えるコミュニティが増えればいいなと思っています。

宮﨑:日本の女性がよく「ロールモデルがいない」って言いますけれど、社内にいないとか、身近なターゲットしか想定していないんですよね。エリックさんのおっしゃるのはもっと大きなモデルなんですよね。

エリック:いやあ、そんな偉そうなことじゃなくて、シンプルな話なんですよ。人って放っておいても誰かに憧れるじゃないですか。「かっこいいなあ、素敵だなあ」って。あんなジーンズをはきこなしているなんてかっこいい、とか、あの髪型かっこいいとか、英語が堪能で素敵とか。そういうちょっとしたことを意識すればいいんだと思うんです。人に憧れ、近づきたいと願い、そうなる為に努力し行動することだけでも、人は前向きになっていけるんですよ。

「人生で何が大切か」、「自分の価値に向き合う」、「シンプルな憧れを大切にする」、など、エリックさんのお話の中に出てきた印象的なフレーズはとてもシンプルなのに、1つ1つにハッとさせられ、「人生や仕事とは」という本質的な問題を考えさせられることの繰り返しでした。女性の働き方に対するエリックさんの新鮮な視点、いかがでしたでしょうか。「憧れている人」、いますか!? そんなところから自分を見つめ直してみると新たな発見があるかもしれません。とにかくユーモアあふれ、憧れを感じたらその対象についてとことんリサーチしまくるというエリックさん。「50歳のおじさんがこんなに楽しそうにしている、というのを若い人たちにも見てもらいたい」と語る笑顔がとても輝いていました。

プロフィール

松永エリック・匡史さん

PwCコンサルティング合同会社 パートナー

バークリー音学院出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストであり、放送から音楽、映画、ゲーム、広告、スマホまで、幅広くメディア業界の未来をリードするメディア戦略コンサルタントとして活躍。メディア業界に向けた戦略コンサルタントのパイオニアとして、アクセンチュア、野村総合研究所、IBM、デロイトトーマツコンサルティングE&Mアジア統括パートナーを経て現職。現在は、最先端のメディアのコンサルティングに加え、デジタルマーケティング事業、メディア業界での経験を活かしたイノベーションを起こす組織改革から女性人財の活用まで世界で勝ち抜く企業力をアップするクリエイティブワークスタイル改革を提唱している。

文・インタビュー:宮﨑晴美(インタビュー)・千葉美奈子(文)

ライター

ラシク 編集部


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