ワークとライフが融合することで今がもっと楽しくなる!
旅先の “他日常” が親子の可能性を広げる「親子ワーケーション」の魅力とは
コロナ禍に一躍脚光を浴びている「ワーケーション」旅が好きなママには興味深く映っているのでは。一方で「やってみたいけれど子どもがいるし……」と躊躇する声も。
そこでLAXICでは、「親子ワーケーション」を推進する今村茜さんにインタビューを決行。毎日新聞の記者である今村さんは、4年ほど前からワーケーションに関する取材を数多く行い、ご自身もまた、3年前に初めて親子ワーケーションを経験されました。
社内新規事業「Next Style Lab」を立ち上げ、イベント等を通じて新しい働き方を読者とともに考えその後の取材に反映するなど、上手にワークライフインテグレーションを実現しています。去年は第3子となる0歳児を連れてのワーケーションにも挑戦した今村さんに、親子ワーケーションの可能性とポイントを聞きました。
初めてのワーケーションで、和歌山県白浜町へ!
編集部:今村さんが初めてお子さんを連れてワーケーションにチャレンジしたのは、2018年の夏と伺いました。 「ワーケーション」という言葉が一般的になったのは去年あたりだと思うのでかなり早い段階で行動に移されていらっしゃるなと!
今村茜さん(以下、敬称略。今村):日本航空が2017年に人事制度としてワーケーションを導入した際に、最新の働き方として取材し、記事にしたのがはじまりでしたね。私自身もやってみたいと思いつつも、当時、小学校低学年と保育園児の2人の子がいてワンオペ状態だったので、難しいなとも感じていて……
そんなとき和歌山県から、親子ワーケーションのプログラムを白浜町で行うとの発表がありました。仕事は関係なく「行きたい!」と思い、応募したんです。
編集部:記者ならではの情報収集力と行動力ですね!
今村:実のところ、小2の娘を夏休み中ずっと学童に通わせることに罪悪感もありました。何より、子どもたちに多様な経験をさせてあげたいと願っていたんです。
編集部:長期休暇の過ごし方はワーママにとって課題ですよね。実際に参加してみていかがでしたか?
今村:すごく良かったです。和歌山県のプログラムはトータル4日間で、うち2日間は子ども向けのアクティビティが用意されていました。水族館のバックヤードツアーや、海や山を楽しむプログラムなど、至れり尽くせりで。その間、親は仕事に集中できる企画でした。
編集部:それはいいですね! お子さんたちの反応は……?
今村:行く前は「知らない子たちと一緒に遊ぶなんてやだ~!」って言っていました。でも行くとお友だちができてすごく仲良くなったんです。キッズキャンプのように親元を離れて宿泊するのではなくて、数時間遊んだら親元に戻れるのも安心材料だったのかもしれません。
編集部:子どもたちが喜ぶ姿は嬉しいですね。
今村:はい。それに親同士も仲良くなれたのが収穫でした。子どもが絡むと、ビジネスライクな会話にかたよらず、より広い話題になるんですよね。プログラムが終わってからも家族ぐるみのお付き合いをしています。
編集部:親子ともに充実した時間になったのですね!ちなみにお仕事ははかどりましたか?
今村:正直、難しい面はありました。キッズアクティビティがあるとは言っても数時間で、本来の1日分の就業時間には及びません。子どもたちが寝た後の深夜や、起きる前の早朝に仕事をしたりと、仕事時間の確保は大きな課題でした。でも同時に、「せっかくお金をかけてきているのだから、早く温泉を楽しみたい!」のような気持ちもあって、仕事中の集中力は高まりました(笑)。かえって仕事にメリハリがついてプライベートの時間も楽しめ、とても良い経験となりました。
親子ワーケーション準備のポイントは
「子どもを預けるか決めること」と「子どもへの声掛け」
編集部:その後、何度も親子ワーケーションを経験されたのですね。小学生低学年くらいまでの子どもを連れて行こうとした場合、考えておくべきポイントはありますか?
今村:ひとつはワーケーション中に子どもを預けるか否かですね。これはワーケーションの目的によると思っています。ライフ重視型 、つまり休暇の合間に少しだけ仕事するというのなら、預けずにスキマ時間に仕事をする形になります。一方、仕事場を普段と違うところに移して働くのが目的のワーク重視型にしたいのであれば子どもを預けられるとベターです。会社員であれば、ワーケーション日が「休み」扱いであればライフ重視型、「出勤日」扱いだとワーク重視型という区別ですね。
編集部:なるほど。ただ、ワーケーション先での子どもの預け方ってどうしたらいいのでしょう?
今村:私が2度目に行った親子ワーケーションは世界遺産の知床がある北海道の斜里町という漁師町だったのですが、そこに決めたのは児童館で小学生を預かってくれると知ったからでした。斜里町は町営のテレワーク施設がある上に、テレワーカーをサポートする有志の方々による団体があるんです。今はコロナ禍で状況が違う地域も多いですが、斜里町のように子どもを預けられる地域、白浜町のようにアクティビティのある地域は少ないながらもあります。
編集部:ということは、親子ワーケーションに積極的な地域を探すのがひとつの方法ですね。
今村:あとはワーケーション先でできた知り合いに地域のシッターさんを紹介してもらうこともあります。ワーケーション仲間と数名で行って、交代でお世話をするのもアリですね。
編集部:預け方をイメージできると、始めるハードルが少し下がりそうです。
今村:子どもに対して「ママは仕事で来ているんだよ」ときちんと伝えることも大切ですね。子どもにしてみれば「旅行に来ているのになんで仕事ばかりして遊んでくれないんだろう?」と疑問に感じるかもしれません。ですから、「旅行じゃなくてお仕事なの」と、子どもに分かるようにワーケーションについて伝えることです。
編集部:確かに、旅行とワーケーションは似て非なるものですものね。ある程度言っていることが頭で理解できる年齢であれば、そうしたことも丁寧に伝えるといいですね。
今村:最初のうちはなかなか仕事に集中できないこともあり、「ママに仕事をさせてくれないと今度から連れてこられなくなっちゃうよ」と伝えたこともありましたが、最近はとても協力的で、アクティビティなどがないときはタブレット教材で勉強して過ごしてくれています。ママがお仕事できるように協力しないと次は来られないと分かっているみたいです(笑)
他人の日常に触れ、子どもの世界が広がる!
親には子どもの成長を見られるメリットも
編集部:当初ワーケーションが不安だったお子さんが、結果的に楽しく過ごせたと伺いましたが、子どもにとってもワーケーションと旅行はちょっと違う、と感じるものなのでしょうか?
今村:いまや「普通の旅行よりワーケーションのほうが楽しい!」と言うくらいです。ワーケーションでは、地域の方の日常に触れることができます。他の人の日常のことを「他日常(たにちじょう)」と呼んでいますが、それによって子どもたちの世界がすごく広がるんです。たとえば、うちの子どもたちは、スーパーの売り場にすごく大きな魚が並んでいてびっくりしたり、北海道では道端でキタキツネに遭遇したり、浜辺で拾う貝殻がホタテで衝撃を受けたり。地域のおじいちゃんやおばあちゃんに優しくしてもらうのも、各地にお友だちができるのも、代えがたい経験です。
編集部:子どもたちに広い視野を持ってもらえそうです。
今村:自分が普段いる世界がすべてではないですよね。自分にとっての「当たり前」が必ずしも当たり前ではなく、まったく違う文化がある。それは、旅行で体験できる非日常とはまた少し異なるものだと思っているんです。だから私はワーケーションに行くなら単身ではなく、子どもたちを連れていきたいですね。他日常に触れた子どもたちの驚きや、新しい経験を間近で見られるのも、うれしいことだなと思っていて。
編集部:多様な世界を見せたいママに親子ワーケーションはおすすめですね。
今村:実際、子どもたちはワーケーションでとても成長しました。私の場合は「ワンオペワーケーション」なので、子どもを3人連れて行くのは、どうしても手間がかかるんですよね。上の子たちはそれが分かっているので、自分のことは自分でやろうという気持ちが生まれたと感じます。荷物を自分で整理したり、重たいリュックを頑張って持ったり。特に3人目がまだ0歳なので、お姉ちゃんたちはとても協力的です。日常生活から離れた環境で、子どもたちにできることがどんどん増えていくなと感じています。
編集部:ワーケーションは大人にメリットがあるだけではなく、子どもの世界を広げて自立を促す上でもプラスだとは知りませんでした!
親子ワーケーションをきっかけに仕事と生活を近づける働き方へ
編集部:最後に、これから親子ワーケーションを始めたい人へのアドバイスをいただけますか?
今村:とても大切だと思うのが、ワーケーションの目的を考えることです。目的によって過ごし方が変わりますから。ビジネスチャンスを探すために各地に行くのか、それとも子どもにいろんな経験をさせたいから行くのかで、過ごし方はまったく違います。自分がワーケーションをしたいのはなぜなのか、まず考えるのをおすすめしたいです。
編集部:ワーケーションに積極的な会社はまだ少数だと思います。社内の理解はどう得るのが良いと思いますか?
今村:私の経験談から言うと、「そういう働き方をする人」だと自分で自分に“タグ付け”をしてしまうことです。ワーケーションをする人だといったん認識されると意外と行きやすくなったりします。今、ワーケーションはICT企業を中心に新規ビジネスの視点からも注目されていますよね。「実証実験としてやります」と宣言して、経験を仕事に反映していくと、他部署から意見を求められることもあるのではないでしょうか。
編集部:今村さん自身も仕事に活かしているのですか?
今村:私自身は、自分のワーケーション体験や出会った人の働き方を記事にするなどしています。ちなみにワーケーション中の業務時間は勤務として扱ってもらっていて、交通費や宿泊費などの経費は自費です。それからワーケーション経験を元に、働き方を考える新規事業「Next Style Lab」を社内で発足させました。読者とのディスカッションを記事や企画に反映する取り組みを始めています。
編集部:プライベートの関心とお仕事を近づけている姿、理想的ですね。
今村:子どもが生まれてから時間が限られるので、生活とのシナジー効果を生むような働き方をしたいと思うようになって。自分の興味関心と仕事が混じり合って、どこまでが趣味でどこからが仕事か、わからないくらいになっているんですけど(笑) これからはワークライフバランスではなくて、仕事と生活を統合したワークライフインテグレーションを目指したいですよね。
編集部:親子ワーケーションは、ワークライフインテグレーションを実現するきっかけになりそうです。
今村:そう思います。社内で新たな挑戦をする”ファーストペンギン”になるのは勇気がいると思います。新しい働き方を試みる仲間が欲しくなったら、NextStyleLabのイベントにもぜひ参加してみてください。これからの働き方を一緒に考える仲間が増えたらうれしいです。
ワーケーションに興味はあれど踏み出せなかった一歩目。「子どもと行くのは大変」と今は無理だと思っていました。それに旅先での仕事中に子どもを我慢させる後ろめたさも、心のどこかに。そんな私にとって「親子ワーケーションは子どもの世界を広げる」「預ける選択肢もある」とは目からウロコのお話でした。コロナが落ち着いたら出発できるよう、計画を始めたいと思います。
プロフィール
今村 茜さん
毎日みらい創造ラボ/毎日新聞記者
2006年毎日新聞社入社、経済部などで働き方の取材を進める。子連れワーケーションのルポ記事執筆を機に、新しい働き方を模索する新規事業「Next Style Lab」を社内で発足。2020年4月からは記者を兼務しながら、オープンイノベーションを推進する「毎日みらい創造ラボ」で事業展開。「#働くを考える」イベントを毎月開催しながら、親子ワーケーションの受け皿拡大を目指し活動中。公開FBグループ「親子ワーケーション部」参加者募集中。Google News Initiative Newsroom Leadership Program 2019-2020 フェロー。3児の母。
文・インタビュー:近藤 圭子
ライター