短時間でも、密度濃く本気で働きたい! 優秀なワーママを活かす「3人で2人前くらいの仕事をこなす」会社のスタイル
「3人で2人前くらいの仕事をこなす」ことをめざしてチームを組めば、優秀なワーママが仕事を辞めずにすむかもしれない。フリーランス同士がチームを組むという構想からスタートしたのがWEBサイトのディレクションを行う株式会社フラップです。バリバリの仕事人間だった代表の小沼さんと守屋さんのお2人のワーママが中心となって、それぞれ助け合いながら1人ではできない大きな仕事を進めています。「チームを組むからこそ、楽しみも倍増する」。そうおっしゃるフラップのお2人に、チームを組んで起業するというメリットや今後の働き方について伺いました。
ワーママが直面する壁を、フリーランス同士がチームを組むことで乗り越える
宮﨑フラップ設立のきっかけを教えてください
小沼さん(以下 敬称略)子どもを産む前に働いていたのはモバイルコンテンツプロバイダなのですが、BtoBの企画、制作、ディレクションなどを5年ほどやらせていただいているうちに、1人目を妊娠しました。産休、育休を普通にとって、2008年に復帰したんですが…そこから何もかもがうまくいかなかったんです。
何がおこったのでしょう?
小沼息子が保育園に慣れなかったんです。普通2~3週間で慣れるといわれていたんですが、1ヶ月たっても保育園で寝ないし、食事もしない。1ヶ月経っても先生から「お昼に迎えに来て欲しい」といわれ、半休をとりながら、毎日1時頃にお迎えに行っていました。
2ヶ月くらいで有休がつきて、会社員としてのキャリアが閉ざされるのはイヤだったんですが、会社を辞めたんです。
息子は入園して半年後にやっと保育園に慣れ、そのタイミングで、フリーランスとしての営業を本格的に開始しました。おかげさまで順調に、フルタイムに近い形で仕事をしていたんですが、2人目を授かり「一部の仕事は手放すしかないか」と考えていたとき、守屋がSNSで仕事の悩みを書いているのを見かけたんです。そこで「だったら会社をやめて一緒にやろう」と声をかけたのがフラップの始まりです。その後、仕事も増えて、2014年10月に法人化しました。
守屋さん(以下 敬称略)私は30代からやりたいことがやれるように、20代の間に、とにかく突っ走りたかったんです。なので、新卒で全部を任せてもらえそうなベンチャー企業に営業として入りました。入社2〜3年目の頃、その会社が社内ベンチャーを立ち上げるような大きなプロジェクトに関わり、WEBディレクターとしてチームにアサインされたのが当時別会社に所属していた小沼との出会いでした。
直属の男性上司が「小沼さんはすごいから、ずっとついて行きなさい」って言っていたんですよ。私はまだ右も左も分からない状態だったので、仕事のことは、全部小沼に聞いて対応していました。違う会社なのに(笑)。
プロジェクトに関わっている間に、妊娠・出産をして、復帰をしたらそのプロジェクト自体がなくなっていました。それで営業職に戻ったんですが、子どもを預けながら短時間で数字を求められ、お客様の対応も時間内にやらなければならない、となると結構ハードで、毎日残業三昧に。出産前のWEBディレクターとしての仕事は好きだったのに「営業は私のやりたい仕事じゃない」と思い始め、SNSでけっこうつぶやいていたんです。
どんなことを?
守屋やりたいけど出来ないというモヤモヤです。当時まだ一人目だったので、育児に気持ちが向けられない自分との葛藤のはけ口がSNSだったんです。
その後、小沼に声をかけてもらって「WEBディレクターとしてのフリーランスという道もあるんだ」と気づきました。もともと「小沼について行けばいい」というのが頭の隅にあったので(笑)、すぐ気持ちが固まりました。同時に考えたのは、子どもの「小1の壁」を乗り越えるために「フリーランスっていう働き方もいいかもしれない」ということ。基盤を創るなら今だと思い切って会社員を辞めました。
実際、小1の壁はどうでした?
守屋意外とすんなり。学童にも入れましたし。学校関係のイベントがあるときに、仕事の調整をしながら出来るのはよかったなと思います。会社員のママに聞くと「会社休まなきゃ」とか「有休がない」とか大変そうなので。フラップで自由な働き方が出来て、自分の責任のある仕事も任せてもらえて、やりがいを感じながら子育てもできる環境にいるなと実感しています。
フラップのチーム編成や、形態はどうなっているんですか?
小沼フリーランスが中心ですが、最近では正社員やアルバイトも採用しました。いろんな人を入れていきたいと思っています。
お二人の実際の業務時間や働き方は?
小沼二人とも10時から5時を基本にしています。私は毎日オフィスに通勤するスタイルです。
守屋私はもう少し自由で、案件によっては自宅で稼働していたり、自宅で作業してそのまま客先に行ったり、という感じでもやっています。勤務形態はフリーなので、10時にいないから不都合、ということはないんです。
「3人で2人前くらいの仕事量をこなす」というスタイル
宮﨑 「3人で2人前くらいの仕事量をこなす」ってすごくいいスタイルだと思ったんですね。そういう働き方は、子どものいる人にぴったりだと思うのですが、実際やってみてどうですか?
小沼もともとフラップの構想を練ったのは私の夫なんです。「優秀なディレクターが出産を理由に仕事を辞めるのはもったいないよね」って。妊娠出産で退職するのは負担の大きさが主な原因だから、それを変えれば職を変えなくてもできるんじゃないか、という発想です。ただ、実際は3人で2人前にはなっていないよね?(守屋さんを見る)
守屋WEBサイトの仕事なので、リリース直前などは1人に負担がかかることはあり、1人で2人前という時期もあります。でも運用の段階に入るとチームで「3人で2人前くらい」のボリュームというのは実現出来ているのかな、と。
小沼仕事を腹八分目にして、3人で2人前としていても「まだやれる、まだやれる」っていううちに、気がついたらみんな100%を超え、120~130%になっている状態です(笑)。
私自身もフリーランス編集長なんですが、フリーになったとたん、自分一人の幅が分かるというか、やりたいという気持ちがあっても無理なことはあって、それがチームを組むことで乗り越えられたり、大きな仕事が一緒に出来るメリットは大きいのでは?という気がします。
小沼そうですね。単独のフリーなら声がかからない大きい案件に関われるのもありますし、細々した雑務とか会社の経営、経理をシェアできたりとか、アルバイトさんに出来ることをお願いして、自分の仕事に集中できたりとか、そういったメリットがあるので、チームというか、人が一杯いるってすごくいいなって思います。
最初はワーキングマザー中心にと思っていたんですが、最近ではママでない人も積極的に入ってもらいたいと考えています。うちに集まってくる人はみんな、なぜかワーカーホリックタイプの人ばっかりなんですよ。「5時になったのでケータイもメールも見ません」と割り切れる人は少なくて。なので、夕方から動ける人とママとがペアを組むようにするといいかなと考えています。たとえば、ママ達は10時から5時まで、そうでない人は1時から8時までみたいな、働きたいスタイルに合わせて、なるべく自由に「おたがいさま」って言えるような環境を作りたいですね。
守屋子育て以外にも介護や病気などで働きたいけど時間的な制約がある、という人はこれから増えると思います。そこで仕事を辞めてしまうのではなく「こういう働き方もある」と、みなさんに知ってもらいたいと思っています。
本気で働くママだからこそのいいポイントをウリにしたい
宮﨑ホワイトボードに全社目標が書いてありますね。
「本気で働きたい全ての人に、生きがいとライフワークを」
小沼経営理念なんです。
「本気で働きたい」というのは、社畜になって24時間働くという意味ではなく、たとえば1時間のコンビニのアルバイトでも、ぼーっとレジで1時間立っていて「今日は暇でラッキーだった」という人と、その1時間で「今日お客さん来ないから掃除しよう」と自分で仕事を見つける人の2パターンに分かれると思うんです。その後者のほうに向けて。
1時間しかやれないけれど、この1時間は本気で働くという。
あとは、ライフワークを見つけてもらいたいと思います。「天職」「一生をかけてする仕事」など、いろんな解釈がありますが、私は、自分が魂を込めて打ち込める、人生を豊かにしてくれるような仕事。働くからにはそういうのを見つけてもらいたい。
おこがましいんですが、フラップという会社が、それを見つけるお手伝いができたらいいな、という思いを込めています。
熱いですね!
小沼ワーキングマザーと言いますが、ワーキングファザーとは言わないですよね。
でも「生き物として子どもを持って育てるのが特別なことじゃないように、働くことも自然なことですよね。なので「私ママなのに仕事をしている」という特別な感じではないです。
守屋「ママがやっている」というと、どうしてもゆるくやっている感が出てしまうんですが、ママだからゆるくというのはウリにしたくない。私たちは、ママだけど本気で働いていて、さらに「ママだからこそ、きめ細かい仕事ができる」とか「ママだからこそ、制限時間内に必ずやります」という、ママのいいポイントをウリにしたいと思っています。
ママだからゆるく、ではなく…
小沼むしろ、子どもの手が離れるとともに、仕事を大きく太くしていきたい。
守屋本気で働きたいと思っている女性がいるってことを、男性にもわかって欲しいです。主人に「お母さんになったんだから、もっとゆるく働いてもいいんじゃない」って言われた事があるんですよ。でもそれは「女性だって働きたい」という気持ちを分かっていなかったのかな、と。いまも「フリーランスになったのは、ゆるく働きたいからじゃなかったの?」と言われることもあります。でも私は、そんなつもりじゃなくて「家族の時間を持ちながら本気で働きたいからフリーランスなんだよ」って思うんです。
小沼私も同じ事を言われた(笑)。
「会社員を辞めてもっと自由にやれるフリーになればいいじゃない」って言ったのは彼だったのに、「会社作る」って言ったら、ちょっと引いているようでした(笑)
もともと旦那さんの提案だったのに
小沼フリーになって「いけるかな」と思ったとき、もっと早く会社を作りたかったんですが、夫がそう言うので「じゃあ、どうしたら私は会社を作れるかな」と考え「売上を上げて、法人化しないといけないくらい大きな規模になればいい」と思って、そこを目指して仕事をしました。そうするとやっぱり、保育料、税金などが高くなってくるので、それを材料に「これは法人化するしかないよね。」と夫を説得しました。
法人化することで、さらにチームとして強く、そして楽しくなった
宮﨑法人とフリーランスは違いますか?
小沼会社という形にすることで、規模がフリーランスと同じでも人が集まりやすくなったり、ちゃんと本気でやっていることが世間にも分かってもらいやすかったり、というのはあります。
それに同じ仕事をやっていても、会社のほうが断然楽しいです。身内、チーム、小さいながらも組織だからだと思うんですけど。
守屋小沼はたまに独り言で「楽しいね、楽しいね」って言っているんです(笑)
小沼ずーっと頭の中は仕事のことですね。移動中も。
誰でも、強みや弱みがあるじゃないですか。私は直感的で、論理性に欠けるから「いまから勉強して論理的になろう」としても、たぶんそうなる前に死んじゃうんですよ。でも組織なら、論理的な人を入れればいい。私の直感の良さを活かしつつ、論理的な人の考えも入れつつ総合的に判断できる。自分に足りないものを誰かが補填して、みんなできれいなバランスがとれた形になったらいいなって。パズルをやっているような感覚があって、それがすごく楽しいんです。
育児と仕事の両立を考えてフリーランスになるという考え方は、だいぶ広がってきているように思います。でも、1人ではやれることに限界がある。同じ志を持つ人同士で会社という組織を形成したり、チームを組むことで、助け合いながら高め合うことができる。フリーランスの先の新たな形なのかもしれません。
プロフィール
小沼 光代・守屋 綾希さん
株式会社フラップ 代表取締役・ディレクター
代表取締役
小沼(中村)光代さん
1978年富山県生まれ。一男一女の母。
2001年に中央大学卒業後、専門商社、企画会社を経て株式会社サイバードへ転職。その後フリーランスを経て、株式会社フラップを設立。「本気で働きたいすべての人に、生きがいとライフワークを。」を経営理念に、日々、家族やたくさんのスタッフ、お客様に助けられながら奮闘中。
ディレクター
守屋 綾希さん
1981年東京生まれ。一男二女の母。
2005年に中央大学を卒業、新卒でベンチャー企業へ営業職として入社後、データとウェブを利用したダイレクトマーケティングのソリューションプロジェクトに参加した事で「ウェブディレクター」に。
2009年に長女を出産後、時短勤務をしながら会社員として復職するも、子育ても仕事も妥協しない為にフリーランスのウェブディレクターとして独立し、株式会社フラップの前身であるフリーランスの集まり「チームフラップ」を結成。その後2014年、チームフラップを株式会社化して現在に至る。
文・インタビュー:宮﨑 晴美(インタビュー)・曽田照子(文)
ライター