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2022.11.04 2023/05/31

「時間主権」を取り戻す
労働時間を自ら選び、管理する働き方へ

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laxic

突然ですが、なぞなぞです。目には見えないけれどすべての人が同じ分だけ持っているもの、なーんだ?

答えは「時間」。1日が24時間なのは、年齢も性別も住まいも仕事も関係なく、誰にとっても同じことです。でも、時間の使い方に悩む方は少なくないのではないでしょうか? ある記事をきっかけに、時間と働き方について考えました。

子育て世代を悩ませる「時間貧困」

今年8月、日本経済新聞にこんなタイトルの記事を見つけました。
「子育て世代『時間貧困』共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少」(※1)

何やら聞き慣れない「時間貧困」という言葉。私自身、初めて知りましたが、その文字からなんとなく意味をイメージできます。そして子育て世代のひとりとして「時間ないよね……」という体感も。

記事は、慶應義塾大学の石井加代子特任准教授による研究を取り上げたものです。時間貧困の定義を次のように紹介しています。

1日24時間を(1)食事や睡眠など基礎生活に必要な時間(2)可処分時間――に分け、可処分時間から労働・通勤時間を差し引いた時間が、国の統計で示される一般的な育児・家事時間より少なければ「時間貧困」と定義した(※2)

つまり、1日のうち食事や睡眠などを除いた時間から、仕事と通勤の時間を差し引く。残った時間が、一般的な育児・家事時間より少なければ「時間貧困」だということです。

時間貧困の状態にあるのは、夫婦ともに正社員の世帯で約30%(夫17%、妻80%)、正社員+非常勤の世帯で5%(夫7%、妻30%)だといいます。労働時間や通勤時間の長さによって、育児や家事の時間が少なくなることは想像に難くありません。

(※1)(※2)引用元 日本経済新聞 「子育て世代『時間貧困』共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少」

時間の捉え方は主観的 個人的な経験を振り返る

わが家の場合は「正社員+非常勤」の世帯にあたります。振り返ってみれば、妻である私の働き方は、子どもが生まれてからの5年間で変化してきました。フリーランスである現在は、仕事をする日を週4日、9時〜16時としています。

以前はどうだったかというと、週5日、17時すぎまで保育園に子どもを預ける日々。自転車で迎えに行き、帰宅後に夕飯を作り、お風呂に入れ、急いで寝かせる……。そんな毎日に疲弊して、「もっと長く働いている人もいるのにな〜。でもツライな〜」ともやもやしていたことを思い出します。

ですが、2歳児までの小規模保育園から幼稚園に移ると、少しずつ考えが変わっていきました。子どもの成長と向き合い、幼稚園に協力的に関わるお母さんたちの姿を見て、「地域のつながりの中で生きることも大切な資産」だと思うようになったのです。

そして、自分は「働くこと」に価値を置きすぎていたのではないかとも思いました。勝手に作り上げた「ワーママ像」に縛られていないか、とも。

その結果、仕事をする時間を減らしていまに至ります。興味深かったのは、幼稚園ママからは「お仕事忙しそうだね」、保育園ママからは「お迎え早い! 大変だね」と言われたことでした。時間の捉え方は主観的なもの。価値観は人それぞれでよいのだなとつくづく思います。私としては、いまはこれがちょうどよいのです。

男女ともに必要な「時間主権」

この選択は、私自身がたまたま持っていた志向性や職種の特徴によるものですが、「育児や家事のために働く時間を調整するのは女性」という、無意識の思い込みも影響していたと思います。

夫はといえば、1ヵ月半の男性育休から復帰した後は、一定の労働時間をキープ。育児と家事を最大限分け合っているとは思うものの、ときには「妻の働き方に“タダ乗り”していること、分かってます?」と思う日も……。働く時間を調整する自由度は、女性に比べて、男性はなおのこと低いケースが多いのかもしれません。「男性=仕事を頑張るもの」という刷り込みが、男性自身にも周囲の人にもまだまだ強いからです。

しかし、国際労働機関(ILO)が2019年に発表した報告書「ジェンダー平等に向けて大跳躍」(※3)で主張するのは、育児などのケアを担う人について、男性も女性も「時間主権」が必要だという点です。

『時間があること』は、ケア責任の再配分を可能にするのに必要不可欠な要素なので、勤務時間に関するより多くの選択と管理を可能にする、より大きな時間主権(time sovereignty)が労働者に必要だ。(※4)

働く時間を自分で選べる。そしてマネジメントできる。そんな「時間主権」が必要だといいます。

また報告書は、パートタイム労働は選択肢として必要だと指摘。ただ、ケアを担うためにパートタイムを選ぶのは女性が多いこと、そのため女性が収入やキャリアの面で不利になること、さらに「フルタイムで直線的な男性稼ぎ主キャリアモデルが支配的であることを示している」ことをはっきり述べています。

とはいえ、パートタイム労働で気になるのは、お給料面のこと。報告書によると、賃金を減らさずに労働時間を減らすことは、男女問わず効果的だと……。そんなありがたい待遇があり得るのかと驚くかもしれませんが、ニュージーランドでは週4日労働で賃金は満額支払い、スウェーデンでは1日6時間労働で8時間相当の賃金支払いという実験が行われ、ワークライフバランスだけでなく、生産性の向上も報告されたそうです。

このアプローチは、先進国、開発途上国 双方において、女性の時間貧困の問題に直接対処することができる(※5)

と報告書は伝えています。

(※3)国際労働機関 報告書「ジェンダー平等に向けて大跳躍」(2019)
(※4)引用元 ※3 16ページ
(※5)引用元 ※3 76ページ

働く時間の常識はすでに壊れ始めている

さて、日本ではどんな動きがあるのかを見てみると、選択的週休3日制の議論が行われ、パナソニックやリクルートなど導入企業も増加しています。その形態は、給与が減るパターンもあれば、変わらないパターン、休みが増える分1日の労働時間を増やすパターンなどさまざまです。

厚生労働省の「多様な働き方の実現応援サイト」(※6)は、短時間正社員や週休3日制を紹介。日本経済団体連合会の企業向けワーケーションガイド(※7)は「働く場所」に関するものですが、場所と並んで時間の柔軟さのバリエーションについても図示されています。

終身雇用制がすでに崩壊しているように、「1日8時間、週5日勤務」という常識もすでに壊れ始めているのではないでしょうか。いまある制度は、歴史の中で人が作り上げてきたものにすぎません。1つの制度に自分を当てはめていくのではなく、働く時間を自ら選びマネジメントする。「時間主権」を取り戻す。それが、これからの働き方のカギなのかもしれません。

(※6)厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」
(※7)日本経済団体連合会「企業向けワーケーション導入ガイドー場所にとらわれない働き方の最大活用ー」 8ページ

ライター/近藤圭子

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近藤圭子

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