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2020.11.17 2023/05/31

産育休取得コンサルタントがコミュニティスクールの理事へ大転換!
堀江由香里さん流、人生のカスタマイズ術

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産育休取得コンサルタントがコミュニティスクールの理事へ大転換!<br>堀江由香里さん流、人生のカスタマイズ術

2020年は男性も女性も働き方やライフスタイルに変化のあった1年だったと思います。今回は女性の就労支援で活躍されていた堀江由香里さんにお話を伺いました。2016年8月の取材以来、2回目のインタビューです。

4年が経ち、堀江さんの事業やご家族との暮らしにもさまざまな変化があったようです。仕事では特定非営利活動法Arrow Arrowの代表理事からファウンダーとなり、そして2021年4月には特定非営利活動法人東京コミュニティスクール(TCS)の理事長就任を予定しています。また、プライベートではお子さんのより良い教育環境を求めて家族全員で京都へ移住しました。「人生は何があるかわからないからおもしろい」と話す堀江さんですが、場所や立場は変わっても、ご自身が掲げられている「選択肢あふれる社会をつくる」というビジョンは変わらないようです。

堀江さんは自分が用意してきたシナリオと違う場面に出会ったとき、何を選び、どう決断したのか。ご自身の中での新たな気づきやパートナーとの話し合いの様子など、この4年間で経験したことを赤裸々に語ってくださいました。

2016年の取材記事はこちら

豊かな子育て環境を求め京都へ移住
産休・育休のママ支援から学校創設への夢にチャレンジ

堀江由香里さん。優しい笑顔は4年前から変わることなく。

編集部:前回お話を伺ったのは2016年8月でした。あれから4年経ちますが、女性の働く状況も大きく変わりましたね。

 

堀江由香里さん(以下、敬称略。堀江):リモートで働くことや副業、パラレルキャリアなど柔軟な働き方がとても普及してきました。もちろん女性だけではないけれど、女性にとって働き方の選択肢が広がると、仕事を「辞める」「続ける」のどちらかではなく、自分のライフイベントに合わせた働き方ができますよね。最近は柔軟な働き方をうまく活用されている女性が増えたなと感じます。

 

編集部:堀江さんの環境もこの4年間でずいぶん変化したのですよね?

 

堀江:そうですね! 住む場所だけでも、東京から京都、そしてまた東京と移動がありましたし、事業のほうも2010年の設立以来、多くの産休・育休前後の女性のサポートしてきました。娘が成長するにつれ「小学校に上がるまではもっとのびのびした環境で子育てをしたい」と強く感じるようになりました。

 

編集部:まさにその想いが学校づくりという夢の出発点だったのですね?

 

堀江:はい。2018年には実際に京都に移住して、豊かな自然環境の中でのびのびと子育てをしながら、夫とともに学校作りに向けて奮闘しました。

 

編集部:ちなみに、堀江さんが京都に移住してからArrowArrowはどのような体制に……?

 

堀江:私たちの事業はもともとリモートワークが可能で研修や講演などで地方に出張することもありました。なので、移住したからといってArrowArrowの仕事が全くできなくなるというわけではありませんでした。ただ、移住したタイミングで仕事の比重を徐々に学校づくりに移し、最終的にArrowArrowの権限は譲渡をしました。もともと共同代表だった海野が代表理事を引き継ぐ形で、私はファウンダーとして組織ののサポートをしています。

 

編集部:自ら立ち上げた事業を譲渡してまで学校づくりに注力されたんですね。堀江さんと三木さん(※)の本気度が伝わってきます。ただ、一方で、堀江さんはこれまでずっと女性支援の第一線で活躍されてきたので、その舵切りに驚かれた方も多かったのでは?

 

堀江:確かに、私の決断を聞いて驚かれる方は多いですね。「女性支援から教育事業は大転換だね!」とおっしゃる方もいらっしゃるので。でも私の中ではテーマは違えど、根本的なところは一緒なんです。

 

編集部:なるほど……!

 

堀江:これまで使命感を持ってArrowArrowの事業をしてきましたが、一方で「事業を潰しちゃダメだ」という意識はなくて。組織が在ることよりもそれぞれがビジョンに対してより忠実な選択している状態への優先度の方が高かったんです。だから「引き継ぐ人がいないなら無理に続けなくてもいい」と覚悟を決めていました。でも現代表理事の海野が「ArrowArrowを無くしてはならない」と言ってくれて、事業を引き継いでくれました。

 

編集部:ちなみに、一緒に運営してきた方たちの反応はいかがでしたか?

 

堀江:びっくりはしてましたけど、いつも突然思いついて行動に移すタイプなので「そう来たか!」って感じでした(笑) 対象は変わるけど、ビジョンがつながってることはすぐに理解してくれたので「じゃあどうやって関係性を続けていきましょうか」みたいな話になったかと思います。あとは私一人の組織ではないので、メンバー一人ひとりと次のキャリアの話も十分しました。

当時のメンバーの中には今は別の場所で働いている人やプロジェクト単位で顔を合わせる人ももいますが、関係性はしっかり残っていて、みんなどこかでつながっています。

(※)三木 智有さん…堀江さんの夫で特定非営利活動法人 tadaima! の代表理事を務めています。

夫婦で奮闘した学校づくり
一転、TCS次期理事長へ!

移住先の京都にて。「自然の風を感じながら親子で散歩するのが日課でした」と堀江さん。

編集部:京都への移住の背景は娘さんの子育て環境と伺いましたが、学校づくりはどのタイミングで興味を持ち進めることになったのでしょうか?

 

堀江:娘が3歳になって、これからの教育を考え始めたタイミングですね。当初は小学校が終わった時間に通う「アフタースクール」を作ろうと考えていました。ところが、ちょうどその頃東京コミュニティスクール(TCS)の存在を知り、「探究型の学びってめっちゃ面白いな!」と興味を持ったんです。話を聞いていくうちに「私が作りたいのはアフタースクールではなく全日制なのでは?」と気づき、全日制の学校を作る決意をしました。

 

編集部:まさにTCSを知り、学校づくりの夢も「全日制」と具体的に描けるようになったのですね!

 

堀江:TCSの教育内容を知れば知るほど、学びの型を身に付けるには時間が必要で、全日制にして実現したい学びのあり方にコミットし続けることが大切だと思ったんです。

 

編集部:でもなぜ教育だったのでしょう? 先ほどもおっしゃっていたように、外側から見るとどうしても「働く女性支援の専門家がなぜ教育に?」って思われる部分は大きいかと。

 

堀江:ArrowArrowで働く女性のサポート事業をしてきて、「人生には選択肢がある」と思えなかったり、自分の選択に自信がないという女性にどうやったら「選択肢は創れるし選べる」と伝えられるのか、ずっと悩んでいました。と同時に、目の前の可能性に溢れている小さな娘を見て、「人生に選択肢がある」と自分を信じ続けられる土台や関係性の重要性に気づき、教育って大事だなと立ち戻った感じです。

 

編集部:なるほど…… ご経験がすべてつながっているのですね。

 

堀江:京都に移住後は学校作りに奔走しながらTCSでインターンを始めました。学校作りが思うように進まず手探りの毎日でしたが、諦めたくないと学校創設の場所を探し続けていたところ、TCSの理事長から「僕の後任として理事長にならないか」とお声がけいただきました。

 

編集部:そのお話を聞いてどう思いましたか?

 

堀江:正直、とても嬉しかったです。ただ、一方で今回の学校創設事業は夫婦でやると決めていたので、夫のことが気がかりでした。なので、TCSの理事長には「一度考える時間をください」と伝えました。

 

編集部:自ら学校創設するつもりで動かれていただけあって、迷う部分があって当然ですよね。

 

堀江:はい。ただ、私はそこで「学校という”ハコ”を自分の手で作ることには執着がないんだな」と気づいたんです。ArrowArrowのときもそうでしたが、自分が本当に興味があって世の中にまだ存在していないことであれば自分で作るしかないと思いますが、今回のように、それが既にあるのだったら”乗っかる”のでいいって。

 

編集部:そこは人それぞれきっとタイプがありますよね。ちなみに、夫でありビジネスパートナーでもある三木さんはどんな反応でしたか?

 

堀江:「俺としては打撃だけど、君にとってはこれ以上ないオファーだからぜひ受けよう」と言ってくれました。とはいえ2年間、ふたりで計画してきたことだから1日かけてじっくり話し合いました。

私が「あなたのキャリアを私が邪魔をする形になりたくない」と言ったら、夫が「いや、俺だって同じだよ」と。お互いに意思を確認して、次の日には理事長に「お引き受けします」と伝えました。

夫婦、家族にとって環境を変えることとは……?

「自分の選びたい未来を選んでほしい」と育休から復帰するママを心強くサポート。

編集部:この4年間、住む場所や仕事など環境の変化が続いていますが、仕事に影響があるかもしれないということを家族としてはどう感じているのでしょう?

 

堀江:不安半分、どうにかなる半分、といったところでしょうか。もちろん1%も勝ち目がないことを選んだりはしないです。ただ五分五分なら「どうにかなる」と思っていました。最悪、今の仕事ができなくなっても働けなくなることはないし、「だったらやってみようよ」というのが家族の思いです。

 

編集部:学校創設も移住も、変化するための潔さと軽やかさが感じられます! 移住については三木さんが場所を選ばずに働けるということも影響していましたか?

 

堀江:夫は講師業が多く、これまでも全国転々とすることが多かったし、執筆業の比重が大きくなってきたタイミングだったので、働く場所にこだわりがなかったのも移住を後押ししたと思います。

 

編集部:なるほど! ご夫婦のタイミングが一致したことも大きいですね。三木さんは今後、教育事業には何らかの形で関わっていくのでしょうか?

 

堀江:夫は自らが代表理事を務めるNPO法人で「家は家族にとって何より自分らしくいられる居場所であって欲しい」というコンセプトを掲げて活動しています。「居場所」自体に興味があるため、今後も教育事業に直接関わるというよりは、執筆を通じて生き方やあり方などの考察を発表していくと思います。

夫婦で目指してきた学校創設というチャレンジは一度ここで白紙に戻る形になりますが、引き続き私たちが目指すビジョンを掲げてそれぞれのキャリアで活動していくことになりますし、何よりお互いがお互いの応援者であることには変わりません。

たくさんの選択肢から自分の「こうしたい」を選び取る
子どもたちの生きる力を育てたい

編集部:これからはTCSで活動されていきますが、堀江さんはTCSにどのような印象を持っていますか?

 

堀江:TCSは1学年最大9名のマイクロスクールで、独自の学びのプログラムを持ち運営を続けている学校は全国的にはまだまだ少ないです。TCSが6年間かけて培っていこうとしているのは「学び続ける人、創造し続ける人」なんです。人生には色々な選択肢から自分で決めて選ぶ場面がありますが、どれを選んだとしても「自分らしくいられる人になりそうだ」という期待がTCSにはあります。それを6年間学べるということも人間形成的に価値がありますね。

 

編集部:今の社会を見ていると「考える力」はますます重要になっていますよね。

 

堀江:「その時はまだできない」でもいいと思うんです。「はじめる力」や「やり抜く力」があれば、必要な時にコミットして勉強することができる。そのことが大事なんだと思っています。

 

編集部:とても大切なことですね! 学校のカリキュラムが面白いんですか?

 

堀江:カリキュラム自体が面白いというよりは、興味を持つきっかけや最初のとっかかり方などを徹底的に伴走してくれるところが面白いです。TCSは全員が教員免許を持っているわけではないんですが、全員個性溢れるスタッフばかりなのと、カリキュラムの作り方にはある程度の仕組みがあって、学ぶ内容がスタッフの個性でぶれないようになっています。TCSを卒業すると、みんなそれぞれ違う道に進みます。違う場に出てみんなそれぞれ壁にぶつかるけど、6年間でできた素地は大きく、どんな場に行っても頑張っているように感じます。

 

編集部:どんな場に行っても自分を保てるってことですね。それを12歳にして確立できる学びの場はあまりないかもしれません。

ここ数年で教育の選択肢が増えていますよね。選択肢があることを知ること、与えられた環境ではなく「自分のこうしたい」環境を選び取ることについてどう思いますか?

 

堀江:それがまさに私自身のビジョンなんです。みんな違うことが普通になればいいし、数ある選択肢の中から自分で選び取って人生をカスタマイズしていることが当たり前になればいいなと思う。そういう社会にしていきたいなと思うし、これからも活動し続けたいですね。

 

編集部:ArrowArrowの活動にも通じることですね。どんなステージでも選択肢があることを知っていることが当たり前。それがみんな共通認識になって欲しいですね。

堀江さん、今日はありがとうございました!

この4年間での堀江さんの変化は、一見携わろうとしていることが違うものに見えますが、「選択肢がある社会であって欲しい」という一貫した思いによってつながっています。何より「一つのことや環境に固執しない」ということが考え方の一つとして参考になりますね。目の前のことにつまづいたり何か迷いがある時、視線をあげてみる。そしてさまざまな選択肢があってそれを自ら選んで良いんだと思えるようになりたいですね。

プロフィール

堀江由香里さん

特定非営利活動法人Arrow Arrow ファウンダー/特定非営利活動法人 東京コミュニティスクール 理事

茨城県水戸市出身。
水戸商業高等学校 情報処理科、千葉商科大学 情報政策学部卒。
大学卒業後、人材派遣・人材紹介事業を行う株式会社ウィルホールディングスに入社。人事部の立ち上げメンバーとして新卒採用や内定者・新入社員研修に携わる。
2008年に非施設型病児保育事業を運営するNPO法人フローレンスに転職。広報事業部長、病児保育事業部長に従事、2010年6月、独立を機に卒業。
2010年7月「子育てや介護などに左右されない選択肢溢れる社会の創造」を目指し活動を開始、2011年5月にNPO法人ArrowArrow設立。中小企業向け産育休取得コンサルティング「産休!Thank you!」子育て期の女性の再就職支援事業「ママインターン」事業などの統括を行う。
2018年4月、NPO法人ArrowArrowの代表理事を共同代表に委譲、ファウンダーに就任。
2018年2月、娘の保育環境を整えるべく京都府京田辺市に移住。娘の小学校入学に向けて移住先でマイクロスクールを設立するため創設準備を開始。2019年東京コミュニティスクールにインターンとして従事。2020年9月東京コミュニティスクールの理事に就任。

文・インタビュー:永見 薫

ライター

永見薫

ライター

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