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2019.07.08 2023/02/15

もっと早く知りたかった! 妊よう力(妊娠力)や
ヘルスリテラシーそのものを上げる、プレコンセプションケアとは

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もっと早く知りたかった! 妊よう力(妊娠力)や<br>ヘルスリテラシーそのものを上げる、プレコンセプションケアとは

妊娠・出産はじめ、女性の体やホルモンについて、皆さんはいつ、誰から教わりましたか?

私は、妊娠・出産の診察時に、随時先生から教わるという状況でした。これまでは大きな病気もなかったので、健康だと思い込んでいたのですが、妊娠中には貧血や甲状腺、高脂血症のなど、検診のたびに心配ごとが勃発。お薬も何も気にせずには飲めないし、食べるものも気をつけないといけないし、運動もしないといけないし。無事に産まれてきてくれたからよかったものの、前から準備できたことも多く、「備えていれば無駄な心配しなくてよかったのでは?」「誰か最初に教えておいてよ……」の連続でした。

編集部でそんな話をしていると、状況は違えども、それぞれの妊娠時に抱いた体の不安要素が出るわ、出るわ。そして、仕事に突っ走って来た私たちの行き着く先には、こんなモヤモヤが残りました。
「1人目が落ち着くまで、とぼんやりしていたら2人目がなかなかできない」
「第二子欲しいけど、育休復帰したばかりでまた産休とか言いにくい」
「3人は欲しいと思っていたけど、今の自分の年齢と体力を考えると到底ムリ」
こんな思いをしたくない、若い世代にも同じ思いをさせたくない!

そこで、たどり着いたのがプレコンセプションケア。あらかじめ(プレ)、新しい命を授かる受胎(コンセプション)するカラダのことを考えて、よりよくしよう、という考え方。妊娠・出産時だけでなく、自分の様々なパフォーマンスを上げるためにも「(健康や医療の情報を入手し、理解し、評価して、適切に決められる力)ヘルスリテラシーを向上させよう」ということ。

そこで若手女性社員を多く抱えるLAXIC運営会社ノヴィータ代表の三好怜子と、6月から新しくLAXICの編集長に就任した鎌田薫の二人が、国立成育医療研究センターの三戸麻子先生にプレコンセプションケアについてお話を伺って参りました。

プレコンセプションケアと妊活の違いとは

ノヴィータ代表三好怜子(以下、敬称略。三好):プレコンセプションケア、まだ聞き慣れてないワードですが、妊活とはどう違うのでしょう?

 

三戸麻子先生(以下、敬称略。三戸):本来の意味は、若い世代の男女が健康になること、ヘルスリテラシーをあげること。そうすることで、より自分の可能性を発揮できる様になり、健康で自分の暮らしが良くなる、と言う考え方です。妊娠・出産があるので、妊活的なイメージがありますが、妊娠・出産がゴールではありません。妊活も大きく含んで、プレコンセプションケアですね。

 

鎌田薫編集長(以下、敬称略。鎌田):妊活と聞くと『妊娠する力を高めよう』という意味合いで捉えがちですが、まずは『体そのものを健康に』ということですね。どこで始まったのですか?

 

三戸:2006年にアメリカで始まりました。No.1先進国で衛生環境も整っているのにもかかわらず、実は早産や新生児死亡が多い。発展途上国と同じぐらいの早産比率で、そこから課題が浮上してきました。原因は肥満です。糖尿病や高血圧の人がそのまま妊娠出産に至ることが多く、そういった背景から「まずは女性の体を健康にし、その先に健やかな妊娠がある」と考えられたのです。

 

三好:まだ新しい考え方なのですね! しかし、日本では早産は問題視されていませんが。

 

三戸:もちろんその国々によって課題は違います。日本は低出生体重児の子が多く、年々、著しく増え続けているのはOECD加盟国の中で日本だけ。原因は、(妊娠する女性の)痩せすぎ。15~29歳の日本人女性の4分の1が痩せと言われています。痩せすぎていること=栄養不足や女性ホルモンの問題の危険性があるということが10~20代の子達に知られていませんから。

 

鎌田:確かに、若い頃はそんなこと気にもしていませんでした。

 

三好:あと、会社の若い社員たちを見ていて思うのですが、社会人になって健康診断を受けたことがない子も本当に多く、婦人科検診ならなおさら。病気にならないと病院に行きませんから……

 

三戸:そもそも教育の中で女性の体をはじめ、女性ホルモンの影響や生理について触れる機会は無いに等しい程度です。医学部でも産科婦人科の講義でひととおり習いますが、他科に進んでしまうとそれ以上学ぶ機会はありません。

 

鎌田:えー! それは問題ですね。日本は女性の性については表立っては話しにくいものだからでしょうか?

 

三好:最近でこそ「性についてオープンに語ろう」という流れになりましたが、生理のことですら言えませんでしたからね(苦笑) 妊娠して初めて、自分の体について知れた気がします。

 

鎌田:早い段階で正しい知識を得なければならないのに、機会がないのは問題ですね。

 

三戸:世界的に見ても日本の性教育や女性の体に関する教育はかなり遅れています。本来でしたら女性は生理が来た年齢から、かかりつけの婦人科や、ホームドクターにかかるのが理想です。

キャリアと妊娠出産のタイミングを考える=国力につながる

三好:では実際に、キャリアと妊娠・出産はどう考えれば良いのでしょうか。仕事を続けながら子どもは3人欲しいってなった場合は、どう考えれば?

 

三戸:キャリアプランとライフプラン両方で考えます。キャリアプランはご自身の会社やスキルで書き出しますよね。ライフプランは、わかりやすく言いますと、ほしい子どもの人数と、自然妊娠を望むか・不妊治療も考えるかで考えます。あくまで海外の論文からのデータですが、もし仮に3人産みたいという場合、自然妊娠なら遅くとも23歳から妊活スタートした方が良いです。

 

 

三好:え……! 結構衝撃的なデータなのですが…… もっと早く知っていたら!

 

三戸:そもそも受精すること自体が、本当に奇跡的なことなのです。生物学的には20代前半が最も妊よう力(妊娠力)が高いですから、それが30代後半になると1割まで下がります。35歳頃から妊娠しにくくなるのは事実なのです。でも、なんとなく仕事を続けてしまっていると、あっという間に時間は経ってしまいます。私も身を以って知りました。

 

三好:最初から “妊娠・出産=奇跡”と思えていたら、キャリアのことも長い目で見られそうですよね。それなら今、数年は休むかペースを落としつつ仕事を続け、なるべく妊よう力の高いうちに健康的に産む、そして何年後かに完全復帰する方が断然いい。

 

三戸:そうなのです。自分も子どもも健康に産んだ方が、復帰も早くスムーズに行えるので、長い目で見ると会社的にも良いし、日本の国力にもつながります。そう思って良いのです。「休むことで周りへ迷惑かける」と思わず、健康に産んで健康で戻ってくる、こういった風潮に変えていくことが大切です。

 

鎌田:本当ですね。ヘルスリテラシーってそう言うことなのですね。

 

三戸:婦人科疾患による生産性低下の経済損失が6.37兆円と言われていますが、自分のヘルスリテラシーが上がっていれば、事前に休むこともできますし、仕事の内容も考慮することができます。その方が全体的に見て、仕事のパフォーマンスも上がるデータが出ています。賢く学んで、自分の体を知った上でコントロールする方が、経済的にも効果があるのです。

育児も仕事も楽しみたい。そんな私たちがすべきこと

三好:LAXICはライフプランとキャリアプラン、両方欲張りたい「ワーママを、楽しく」がコンセプトのメディアなのですが、そんな私たちは何に気をつけておけば良いのでしょう。

 

三戸:まずは自分の体を知り続けないといけないですね。どうしても出産後は子どものことに手がかかってしまい、自分のことは後回しになりますから。次も子どもが欲しい場合は1年に1回、健診や婦人科検診は必ず行くこと。あと産後も妊娠で得た知識や情報を大切に活用しましょう。例えば血圧だと、妊娠中に血圧が上がった場合、将来的にも上がりやすいと言うデータがありますので、引き続き血圧には気をつけておくこと。

 

鎌田:私が以前勤めていた会社は美容系でしたので、女性が多い職場でした。今、思えば社長の中にすでにプレコンセプションケアの考え方があったのでしょうね。必ず人事から婦人科検診を受けるようチェックされていました。大事な社員の人生を考えた時に「今、会社にいてくれないと困る」と言うより、また帰ってこられる環境作りが大事ですね。

 

三戸:すごく恵まれた環境でしたね。女性活躍にアンテナを張っている企業はこの重要性に気づいているので、人事の方も相談に来られますね。みんなが知識を得ることで、上司も部下も助け合える環境ができれば理想です。次の世代に続いていくことですから。

 

三好:フリーランスとなると、検診は遠のきますね。婦人科系となるとさらに…… 子どもと一緒にお母さんを診てあげられる病院があればいいですよね。

 

三戸:この前、良いアイデアをくださった方がいて「母の日に健診をプレゼントするのはどうですか?」と。すごく良いプレゼントですよね。個人でも会社でもできそうです。

 

鎌田:ちなみに、実際に先生のところに相談に来られる方はどんな相談で?

 

三戸:第一子、第二子の相談の方もいますし、漠然と「私、大丈夫ですか?」と相談に来られる方もいらっしゃいます。こちらにはプレコンセプション・チェックプランとプレコンセプション相談外来の2種類あります。チェックプランは検診(尿検査・身体測定・血圧・血液検査)と医師・管理栄養士のカウンセリングとランチがついたセットで、オプションで婦人科検診や卵巣年齢の測定、骨密度などをつけることができます。基本的には、検診の結果を見てのお話になるので、チェックプランを受けていただくことが多いですね。相談外来の方はご病気を持ちながら…… など、セカンドオピニオン的に使って頂いています。

 

鎌田:漠然とした相談でも良いのですね! キャリアとライフを両方聞いてもらえるところがないので、そこも一緒に考えてもらえるのが嬉しいです。

 

三戸:会社やキャリアのことはそれぞれ事情が異なると思いますが、考え方のアドバイスや、プレコンセプション的に気をつけた方が良いことなどはアドバイスできます。

これからの世代に向けて、より多くの人に届けるには


三好:若い世代やそのほかの層が、プレコンセプションケアの重要性を知るためのタッチポイントってどこなのでしょう。結婚を考えたぐらいには知っておかないといけませんが、ブライダルチェックでは健診だけで、キャリアとの考え方まで促していない。

 

三戸:そうなのです。私たちもそこに頭を悩ませています。大学での講義で学生向けのセミナーはもちろん、ブライダル会場で相談会を開催したこともあります。しかし、広く知ってもらうにはまだまだで…… 以前、NHKで取り上げてもらった時は、お母さんが番組を見て娘さんに受診を促してくれ、予約が1年先まで取れない状態になりました。あと、パートナーもあまりわかっていないから、一緒に来られるパターンもあります。生理のことも知らないから、説明するのに余計イライラしちゃうって(苦笑)

 

鎌田:確かに! 男性側の啓蒙も必要ですね。

 

三戸:カップルプランもご用意しています。男性の検診の内容としては風疹・麻疹などの感染症チェック、あと医師と管理栄養士によるカウンセリングがセットです。メタボ検診は会社でうけていらっしゃることがほとんどなので男性のプランには入れておりません。平日のみ開催ですが、男性も同じように知らないといけないので、お仕事を調整して来られています。

 


国立成育医療研究センターHPより

 

三好:とにかく日本は「早く仕事に復帰しないと」「迷惑をかけられない」という意識が強すぎると思います。私も出産で3ヶ月不在にしていた期間がありましたが、その期間に社長の代理は立てず、社員みんなでカバーしてもらいました。母親になるのも初めてで赤ちゃんも初めて尽くしなので、そうやって皆でカバーしあえばよいと思います。男女問わず意識していないとタイミングを逃してしまうこともあると思いますが、そこは会社として責任が取れないので、社員一人一人そして会社側も意識をしていく必要が高まっていると思います。

 

三戸:妊娠・出産はどれだけ健康で臨んでいても、ある一定の割合で問題が生じる部分はあります。こればかりは「神のみぞ知る」なのですが、ただ、知ってさえすれば対応できたのに、というところは予め知っておきたいですよね。

 

鎌田:仕事と人生の考え方が本当に海外と違います。もっと自分ファースト、家族ファーストでいい。ライフプランももっと自由で良いはず!

 

三好:キャリアプランとライフプランの考え方セミナーなど是非一緒に企画しましょう。LAXICでお手伝いさせていただきますよ! お忙しいなかありがとうございました。

物腰のとても柔らかな三戸先生なので、気になることをなんでも素直に訊ねることができました。何よりも、キャリアもライフも楽しみたければ、ヘルスリテラシーをあげること、まずは自分の体を知ることの大切さを思い知らされました。もし、いま自分の体は大丈夫? と思っている人は、プレコンセプション・チェックプランを受診してみてください。チェックプランの詳細は国立成育医療研究センターのHPでご確認を。

プロフィール

三戸麻子さん

国立研究開発法人国立成育医療研究センター、周産期・母性診療センター母性内科所属

’03年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。専門は腎臓・高血圧(特に妊娠に関連した腎臓・高血圧領域)と母性内科学。1児の母。
これから妊娠希望の女性、妊娠中や産後の女性、次子希望の女性の健康を、内科医の立場でサポートしています。

文・インタビュー:飯田りえ

ライター

飯田りえ

ライター

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