【これからの子育て特集/インタビュー】
具体例から考える「しつけ」と「体罰」の境界線とは?

ラシク・インタビューvol.200

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部 西崎 萌さん

「食事中はウロウロ立ち歩かない」という約束をしているにもかかわらず、何度注意しても言うことを聞かないのでピシャッと足を叩きました。ーーこれってしつけでしょうか?それとも体罰でしょうか?

食事中のマナーを教えている訳だし、何度言っても直らないのであれば、軽く叩くぐらいはしつけとして必要なのでは? でも、やっぱり手を出す必要はないのかも…。

以前のコラム(※)で紹介した「しつけと体罰に関する読者アンケート」でも、同様の迷いや本音が垣間見えました。理由はさまざまありましたが、確実に言えることは「(必要のない行為と)頭では分かっていながら、とっさに手が出てしまうときがある」という実態と、「その行為に対して自分を責めたり、悩んだりする背景がある」ということ。

今回は、子ども支援活動のパイオニアである公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部の西崎萌さんに、しつけと体罰の違いについてお話を伺いました。

(※)「わが子を怒鳴ったこと、叩いたことがありますか?」しつけと体罰に関する緊急読者アンケートから見えてきたママたちの本音とは?
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
 

「しつけ」と「体罰」の境界線は、安全性の確保があるかどうか

出典:セーブ・ザ・チルドレン『どうなる?子どもへの体罰禁止とこれからの社会』より

編集部:この度のLAXIC読者アンケートでは、6割の方が子どもを叩いたことがあり、9割の人が怒鳴ったことがあると回答しています。さらに8割近くの人は「体罰は必要のない行為」と認識していました。

 

西崎 萌さん(以下、敬称略:西崎):非常にリアルな数値ですね。大なり小なり子育てに悩んでいる方が多いのかなという印象を受けました。

 

編集部:理由の多くが「危険なことをしそうになった」「何度言っても同じことをする」「自分のイライラがどうしようもなく」でした。子どものためを思ったしつけによる行動と、体罰の境界線がわからなくなってしまいました。

 

西崎:では事例をもとに考えてみましょう。

 

<しつけと体罰の境界線事例>
6歳と4歳で兄弟げんかがはじまり、お互いを突き飛ばしているのが見えました。「ストップ!!」と行って近づきましたが、聞く耳を持ちません。弟が転び、お兄ちゃんが馬乗りになって弟の頭を叩きました。(1)「やめなさい!」と大声を出して暴れる兄を抱え込み(2)無理矢理その場からひき離しました。兄は興奮して話を聞こうとしないので、(3)弟の痛みを伝えるために、強めに兄の頭を叩きました

 

西崎:①と②に関しては、体罰に該当しないと考えます。その理由として子どもの安全を確保するためのものであるか、というのが判断基準になるからです。弱々しい声で「だめだよー」と言っても聞きませんし、早く止めないと弟のケガにつながるかもしれません。しかし、引き離した後に「お兄ちゃんが何やってんのよ!」と怒鳴ったり叩いたりすると、それは体罰にあたります

 

編集部:なるほど。(1)と(2)は安全確保のためなので体罰には当たらないのですね。

 

西崎:あと「何度、言っても同じことをする」から叩いても、なぜ悪かったのかが子どもには伝わりません。なぜこの行為がよくないのか、というのが伝わっていない以上、同じようなことを何度も繰り返します。体罰は耐性ができてしまうので、最初は手の甲をパチンと叩く、で済んだとしても段々と効かなくなり、そのうち頭を叩く、こぶしで殴るなどエスカレートしてしまうのです。

 

編集部:不適切な行為を注意した後、感情に引っ張られて、怒鳴ったり叩いたりすると、それは体罰になるのですね。そこが混同しがちでした。大人の方の気持ちの切り替えが必要ですね。

 

西崎:私も息子が道路に走って行こうとしたとき「危ない!」と手を強く引っ張ったことがあります。これ自体は体罰ではないですが、その後に「こないだも言ったでしょ!」と私が怒鳴ったとしても、次男にとっては「こないだって何?」と意味もわからず怒鳴られただけで、何も学びがありませんよね。子どもの学びや気付きをサポートできるような対応ができているか、それがしつけの重要なポイントです。

 

何度注意しても同じことをする、これには理由があった

西崎 萌さん/オンラインで取材しました

編集部:とはいえ、実際に日々子どもと向き合い、何度も同じことをされると、つい、口うるさく言ってしまいます。

 

西崎:子どもが同じことをしてしまう理由は二点あり、一点は「伝え方が有効でない」と言うこと。親自身がそこに気がつかなくてはなりません。もし仕事で部下が何度言っても同じ失敗を繰り返した場合、怒鳴ったり叩いたりはしませんよね。伝え方を変えるとかスモールステップにするとか、何か工夫すると思います。

 

編集部:確かに。子どもの場合だけ怒鳴るのは、おかしいですね。

 

西崎:あともう一点は、子ども(特に3〜5歳)の脳はまだ発達段階だということ。その年代の子どもたちの神経回路は、例えていうと、“うっそうと生い茂った森”のようになっているんです。一度通ると少し跡が残り、だんだんそれが太い道になるように、脳の神経回路のつながりも強化されていきます。適切に学んでいく段階には、このプロセスが必要なのです。それを知った上で、子どもが理解できるような方法を考える必要があります。

 

編集部:なるほど。そういう脳の構造を理解すると、怒鳴っても仕方ないことがわかりました。あと、「怒る」と「叱る」の違いはありますか? 

 

西崎:怒る=感情で、叱る=冷静に注意する、だったとしても、その内容がどちらも”自分”出発なら意味合いは同じです。大人が介入することによって子どもが学べるような、少しでも子どものプラスの方向になるような介入でないと、意味がありません。冷静に注意しても、そこで人格否定されたら、心を傷つける罰になりますから

 

編集部:そこも混同していました。

 

西崎:たとえば、冷静に「あなたはいつも忘れ物をしてダメな子ね」「お姉ちゃんはそんなことしなかったのに」と叱られても、子どもは次にどうしたら良いかわかりません。よく忘れるものがあるなら「前の日に玄関に置いておこう」「夜寝る前に荷物を一緒に整えようね」など、解決策を一緒に探らないと、状況は改善しません。

 

自分のイライラコントロール術を知っておくこと

出典:セーブ・ザ・チルドレン『おやこのミカタ』より

編集部:親のイライラをぶつけることが、本当に意味がないことだとわかりました。では、このイライラを抑えるには?

 

西崎:自分が「こうあるべき」という固定概念や理想像と、いま目の前にある現実とのあいだにギャップがあるとイライラが生じます。そこで、わが子に「どんな大人になって欲しいか」という先の理想から逆算して考えると「今、固執している固定概念は、自分の理想像には繋がらない=ゆるめてOK」という確認ができると思います。ちなみにお子さんたちには、どんな大人になって欲しいですか?

 

編集部:自分の考えを持ち、自らの人生を切り開く大人になって欲しいです。

 

西崎:そのような理想像に近づくには、子どもの頃から自分の考えや意見を自信を持って言える環境が必要ですよね。そこに対して、現状「親の言うことを聞かない」とイライラしていては、自分の想いと真逆のことをしています。ですから、「親の言うことを素直に聞く=良い子」という固定概念を捨て、許容範囲を広げていけばいいのです。

 

編集部:冷静な時に、自分の理想像と日頃の自分の子育てが合致しているかを、見直す必要がありますね。

 

西崎:あとは、自分のイライラを和らげる方法もぜひ知っておいてください。私なら冷蔵庫の中にチョコレートなど甘いものを入れておいて、気持ちがイライラしてきたら、キッチンの隅でこっそり食べながら気持ちを落ち着けています(苦笑)。人によっては冷たい水で手を洗うとか、好きなアロマの香りをかぐ、風にあたるとか…それぞれのイライラ解消法があると思うので、それを用意しておきましょう。セーブ・ザ・チルドレンのHPにイライラマネジメントのアイデア(※)がありますので、ぜひご覧になってください。

(※)セーブ・ザ・チルドレン あなたのミカタストレスとうまく付き合い自分自身を大切にするためのヒント

 

自分が自分でなくなるほど、追い込まれた時はどうすれば?

出典:出典:セーブ・ザ・チルドレン『おやこのミカタ』より

編集部:しかし、「ワンオペが続いて自分が壊れていた」「もう自分では、どうにもならない…!」そんな時はどうすれば良いのでしょう?

 

西崎:人に頼ることをもっと気楽に考えられたらいいな、と思います。私も経験がありますが、ワンオペの日の夜10時、長男が大暴れし次男を抱っこ紐に入れながら、逃げ回る長男を追いかけて…。もう怒るを通り越し、絶望しました。この時に誰かに「お願い、助けて!」と言え、10分でも子どもと距離がおけたら違っていただろうなと思いました。もし、この状況が毎日続くと叩く・怒鳴るは起こりうると思います。

 

編集部:絶望感、わかります。しかし、実母や義母が近くに入ればいいですが、いなければ「誰に頼るか」という問題が浮上します。ベビーシッターを頼むとか、ファミサポさんを見つけるなど、お金をかけることになると、夫婦間でのすり合わせも必要になりますが…。

 

西崎:「自分さえ耐えれば、なんとかなる」と思っていると、人を頼る・お金をかけるハードルは一層高くなりますね。私たちは子育て支援の拡充を政府に働きかけていますが、いくら制度を整えていても個人の意識の違いもありますので、日頃の話し合いの積み重ねが非常に大事になります。

 

編集部:あらかじめパートナーや周囲の人と意見をすり合わせるのが重要なのですね。あと「反射的に叩いてしまった」場合はどうしたら?

 

西崎:脳の構造上、感情を司る部分が普段は理性でふたを閉じているのですが、理性がパッと外れてしまうと、一気に感情が溢れて手が出てしまうのです。そのふたをしているフックを外れにくくしておくことは必要で、日頃のイライラは貯めておかないことが肝心です。

 

編集部:私の実体験ですが、トイレトレーニングを嫌がる子どもがトイレで暴れて、ウォシュレットの水が自分の顔にかかってしまった時、つい「何やってんのよ!」とバシッ…と。

 

西崎:その場合でしたら、「トイレトレーニングを暴れるまでやらない」と判断することでしょうか。ご飯を食べない、トイレトレーニングがうまくいかない、これらはいつかはできる様になります。それよりも目の前の子の状態をよく見て、自分の状態をよく見て「今日はもうやめておこう」と柔軟に関わり方を変えていくことも必要です。自分を客観的に見るということと、子どもの発達を客観的に見ることが必要です

発達段階は様々なので「何歳までにこれができるように」という指標に縛られないことです。子どもの権利の中にも「差別の禁止」というのもありますが、兄弟間や友達と比べる、男女で比べる、そういうのも大きく捉えると差別に当たります。

 

日常生活における「子どもの権利」ってどういうこと?

出典:セーブ・ザ・チルドレン『おやこのミカタ』より

編集部:やはり「子どもの権利」という土台があるのですね。しかし、なかなか浸透しておらず、具体的なイメージがしにくいです。

 

西崎:学校教育でも1989年に国連で採択され、日本は1994年に批准…など知識としては学びますが、「人権ってなんだろう」ということを考えないまま知識だけ言われても、自分ごとにはなりませんよね。

 

編集部:まさにそうなのです。日常生活において「子どもの権利」とはどういったことを指すのでしょうか?

 

西崎:難しいことではありません。日ごろ、目の前の子どもと「どんな風に接していますか?」「子どもの意見にちゃんと向き合えていますか?」これらを大切にし、一人の人間として認めることが子どもの権利を尊重するということなのです。

こういう話をすると「子どもに主張ばかりされるのは嫌」と思う方もいるのですが、親にとってのメリットもあります。子どもが意見を言う→大人がきちんと話を聞く、それを反映して意思決定をする(子どもの意見表明権)。この様に、お互いを尊重したコミュニケーションを日常的にとっていると伝わりやすくなり、ミスコミュニケーションも減ります。

 

編集部:伝わらなかったことでのイライラが軽減されるのですね!

 

西崎:あと、子どもが言うことをすべて聞くこととは違います。それは単なる甘やかしになるので、「これはいいアイデアだから取り入れよう。でもこっちは難しいかな、その理由はこうだよ。でもあれならできそうだよ。」とお互いの意見を受け止めあえる関係が、日常の中で非常に大切になってくるのです。赤ちゃんに対しても、言葉で伝えられない幼児でも同じです。

 

編集部:なるほど! 子どもの権利というイメージがグッと近くなりました。

 

西崎:わが家だと休日の行き先を、子どもたちに決めてもらっています。「どこに行きたい?子どもたちで決めてね」とお願いし、たとえば「南極のペンギンを見に行きたい」と言われたとしても「南極は難しいけど、動物園のペンギンなら見に行けるね」と。子どもが自分の意見を言えて、大人がそれを適切に反映してフィードバックする、そういうところからかな、と実践しています。

 

編集部:いいですね! 子どもも大人もワクワクします。

 

西崎:日頃からこういうコミュニケーションを心がけていると、お互いが伝わるような言い方を考え、伝えるための工夫をし始めます。子どももワーっと発狂しなくなりますよ。ほかにも「着ていく洋服は自分で決める」、「子どもが自分でやりたいと決めたお手伝いを、子ども一人でできるように親がサポートする」なども、子どもの権利を尊重した子育てになります。

 

編集部:そういう日々の関わりが、結果的に叩かない・怒鳴らない子育てにつながるのですね。貴重なお話ありがとうございました。

アラフォー世代は「叩く・怒鳴るも愛情のひとつ」みたいな教育を受けてきた最後の世代。今の時代に合った子育てとの間にギャップや迷いが生じてしまうのは当然ですが、エビデンスが整った現代において、古い子育てを継承する必要は一切必要ありません。だからこそ、自分を客観的に見つめながら少しずつ、時代に合わせてアップデートしていく必要があるのです。しつけと体罰の違い、怒ると叱るの違い、そして子どもの権利、どれも具体例を出してお話いただいたので、非常にイメージしやすかったですね。西崎さんのアイデアに「休みの日のお出かけ先を子どもたちが決める」とありましたが、今年の夏休みにぜひ、実践してみたいと思います。

西崎 萌さんプロフィール
1987年、新潟県生まれ。国際基督教大学教養学部教育学科卒業後、民間企業勤務、教員を経て、筑波大学大学院教育研究科で修士号(教育学)取得。2017年4月、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン入局。国内事業部子ども虐待の予防事業担当として、親や養育者、支援者などに対するたたかない、怒鳴らない、ポジティブな子育ての講座や講演、ワークショップの実施、ウェブサイト「おやこのミカタ」の制作などに従事。また、子どもの権利保障のための政策提言活動も担当。2017年と2021年には、日本国内の大人2万人を対象とした子どもへの体罰等に関する意識・実態調査を行い報告書にまとめた。3児(小2、年長、2歳)の母。
HP:おやこのミカタ

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:飯田りえ

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