学びの力で“貧困の連鎖”を止めよう。NPOカタリバの支援プロジェクトから考える、いま私たちにできること【後編】

ラシク・インタビューvol.169

認定特定非営利活動法人カタリバ代表理事 今村久美さん

前編に引き続き、認定特定非営利活動法人カタリバ代表理事である今村久美さんに、見えない貧困で苦しむ子どもたちへ、学びの機会を支援する「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトのお話を伺いました。

今回のコロナ禍で生活が困窮している子どもたちが、さらに苦しい状況に陥っていること。PCやWIFI環境が揃わず、オンラインの集まりに来られない=学びや居場所の機会が失われること。また、その状況を全く知らない人も多く、子どもの貧困に対して理解が得難いこと…… など、格差以上に、社会の”分断”が広がっているという状況を教えていただきました。後編は今回のプロジェクトにかけられた思いや、貧困問題について私たちにできることを伺います。

前編はこちら

 

学校にいけないけど集まろう【カタリバオンライン】
クラウドファンディング【あの子にまなびをつなぐプロジェクト】
 ※2020年8月31日までREADYFORで寄付を募集中

ICT教育には「伴走する大人が必要!」というエビデンスを残したい

プロジェクトのオンライン記者発表時の様子(左上が今村久美さん)

編集部:今回のプロジェクトは単にデバイスを提供するだけでなく、アドバイスをくれる大人の存在がいることが特徴的だと思います。PCを提供するだけでは、やはり不十分なのですか?

 

NPO法人カタリバ 今村久美代表(以下、敬称略。今村):日本もこれから急速にオンライン教育に進んでいきますが、PCやタブレットといったデバイスを使うだけではなく、最も重要なのは”伴走する”大人の存在だと考えています。

 

編集部:確かに。ただPCを渡して「このAIドリルをやってね」といってもなかなかできませんよね。そこに伴走してくれる大人の存在は確かに大事ですね。

 

今村:ただPCやタブレットを配るだけでは、YouTube漬けになってしまうかもしれません。デバイスの使い方が重要なのです。もし親が伴走できないのであれば、今回の方法のように、別の大人がオンライン上でサポートに入り伴走し続ける、このスタイルを日本各地で実施できるよう、将来的につないでいきたいのです。政府としてもICT教育のためにパソコンの予算はとっていますが、伴走する大人の存在は想定されていないので、「PCだけではなく、今後は”デジタル・ソーシャルワーカー”というべき新しい役割が必要です!」ということを国に提言していきたいのです。

 

編集部:そのために、今回のプロジェクトでエビデンスを残すのですね。

 

今村:はい。民間から政府にアプローチを進めていくには、政策提言につながるエビデンスが必要です。そのため、今回のプロジェクトでは慶応義塾大学 教育経済学者の中室牧子先生に入っていただき、どういうICT教育を、どういう方法で行うことが効果的なのかを研究していただきます。オンラインでの学びについては「カタリバオンライン」を使いつつ、AIドリル「キュビナ」やネイティブ英会話「ワクワークイングリッシュ」などの教材を使います。中長期的に支援し続け、学力的な部分は習熟テストでわかりますし、自己コントロール力や自己調整力などの非認知能力も計測する予定です。

 

編集部:なるほど! ICT全体の発展を見据えた動きなのですね。こういった発想はどこから?

 

今村:今までの反省に基づいているのです…… カタリバは設立して20年目です。常にスピード感が求められますので、先日の熊本の豪雨災害でも、東京からは支援に行けないので熊本地震の時のスタッフと連絡を取りいち早く動き出しました。2011年の東日本大震災の時も東北に移住して、現地で人を雇用して、子どもたちの居場所も作って…… と、やれることは全てやってきました。それでも、最終的に報告できた事といえば「みんながこんなに笑顔になりました」というストーリーだけに止まり…… 今まで「何が政策妥当性ある行動だったのか」と言うような、インパクト評価ができていなかったのです。

 

編集部:なるほど…… これまでの経験と反省に基づいた構想なのですね。

 

今村:アメリカの非営利セクターと比べても、日本のNPOは追いついていませんし、もっとプロフェッショナルな仕事をしなければならない。そのためにも、今回の寄付が世の中にどれだけのインパクトを持って使われたか、研究成果をもって報告する必要があるのです。

投資してくれる人、努力できる土壌や機会そのものがない状況を知る

編集部:前編でもお話しましたが、「貧困」という言葉が強いからか、自分とはかけ離れた話だと思っている人も多いと思います。子どもたちの未来に、貧困や分断した社会を残していいはずがないのですが、どうしたら解決できると思いますか?

 

今村:まずは実際に起きていることを”知る”ことと、さまざまな立場の人たちが”対話”することだと思います。

カタリバを立ち上げた時も、私も同じような違和感を覚えました。私の実家は飛騨高山ですが、大学生になって初めて東京に出てきた時に衝撃を受けて。今まで見たこともない洗練した人たちが大学内に溢れていて、モチベーション高く、学ぶことを楽しんでいる人たちがこんなにいるんだ…… と。そして、自分とのギャップをものすごく感じたのです。

最初は「かっこいいな」と思っていたのですが、次第にその人たちが「自分の腕一本でのし上がってきた」と思っているように感じました。努力できる土壌があって、投資してくれる人たちがいたから、ここまでやって来られた。その一方で、努力できない環境でハンデを背負っている人たちもいるのです。

「今、地方でどんなことが起きているか」「経済的に充実していない家庭の子どもたちがどんな暮らしをしているのか」、環境によってチャレンジできるハードルが違うことを知らないまま、社会のリーダーになっていく…… これは危機的状況だと感じました。だからこそ「立場の違う人たちが対話的教育プログラムでつながればいい」と思い、大学生の時にカタリバを立ち上げたのです。

 

編集部:20年前の大学時代に、すでに教育の機会格差を肌身で感じられたとは……! 今は、さらに格差や分断が広がっている気がしますが、今村さんが対話を進める上で、大切にしていることはありますか?

 

今村:貧困に対してアプローチをしようとすると、どうしてもその環境に置かれている人たちと「支援する側・される側」というような上下の関係を想像されるかもしれません。そうではなく、前編でもお話ししましたが、相手には必ず尊敬の気持ちを持ち、友人のようなフラットな関係が築けるような、対話的支援を目指しています。

働くお母さんが一人で働いて、一人で子育てして…… もうそうしている時点で尊敬じゃないですか。でも、周りに相談できる人がいなくて孤立しがちです。ペアレントメンターを立てて気軽に相談ができる関係性を作り、一緒に子どもたちを見ていける信頼関係を作っています。

保育園や幼稚園、小学校に隣近所…… まずは身近なところから対話しませんか?

設立発起人(五十音順)今度珠美さん/鳥取県情報モラルエデュケーター 小泉文明さん/株式会社メルカリ 取締役President(会長) 酒井 穣さん/株式会社リクシス副社長 神野元基さん/株式会社COMPASSファウンダー 高橋歩さん/作家/NPO法人オンザロード 代表理事 竹下隆一郎さん/ハフポスト日本版編集長 豊福晋平さん/国際大グローバル・コミュニケーション・センター准教授 中原淳さん/立教大学 経営学部 教授 中室牧子さん/慶應義塾大学教授・教育経済学者 水野雄介さん/ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 村上絢さん/一般財団法人村上財団 代表理事 山崎大祐さん/株式会社マザーハウス 代表取締役副社長 山田貴子さん/株式会社ワクワーク・イングリッシュ 代表/慶應義塾大学 講師(非常勤)

編集部:最後にお伺いします。普段の生活の中で分断や格差に触れていない私たちには、一体、何ができるでしょうか?

 

今村:まずは今、何が起きているのかを知ってください。寄付をすることが知る機会にもなりますし、今回は寄付をしてくれた人たちに伝える場を持つので、ぜひそういった場にも参加してほしいです。

あと、困難を背負っている人は「問題が重複している」ということを知っておくだけでも違うと思います。生活保護を受けているあるシングルマザーにお話を聞くと、ご本人も少し障害があり、お子さんもコミュニケーションがうまく取れず…… 周りのお友達ともトラブルが続いて、学校では問題児扱い。結局、不登校になってしまったそうです。するとお母さんも家からでられないので働きに出られず、ますます苦しい状態に陥ってしまいます。

 

編集部:悪循環から抜け出せないのですね……

 

今村:もし、自分の子どものクラスでいつも問題を起こしていているお子さんがいたら「できれば関わりたくない」「我が子とのトラブルを避けたい=排除したい」と考えてしまうかもしれません。でも、その家庭には大きな問題が重なっているのかもしれないのです。「どうして今、こういう状況なのか」と想像力を少し働かせて、少しでも知ろうと心がける、声をかけるだけでも状況は違ってくると思います。

 

編集部:なぜそうなっているのか。その根本を理解しない限りは、ただ分断が生まれてしまうだけですからね……

 

今村:たとえ分かり合えない前提でも、「お互いを知る」という意味で、対話することは重要です。保育園なり小学校なり、隣近所でいいと思います。みんなが少しずつ声を掛け合って、少しずつでもお互いを知ることができたら、日本も変ってくると思います。人と人が対話し、つながっていくことで社会の治安維持にも関わってきますから!

 

編集部:本当ですね。カタリバのプロジェクトをきっかけに、まずは知ることから始めたいと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました!

※『あの子にまなびをつなぐプロジェクト』のクラウドファンディングでは2020年8月31日11:00PMまで寄付を募集しています。ご支援をお考えの方はぜひお早めにお願いいたします。詳細はこちら

「報道の中での話」と思っていた貧困の問題。知らなかった部分が少しずつ見え、今まで見ようとしていなかった自分に気づきました。今村さんが20年前、すでに社会が分断していることを察知して立ち上げたカタリバ。「尊敬を持って対話している」この言葉はすごく重みがありました。貧困や分断、と聞くと大きな社会問題として捉えがちですが、身近なところからの地続きで繋がっています。寄付やこうしたプロジェクトから知るきっかけを得たら、身近なところから声を掛け合い、状況を知ることから始めたいと思います。

今村久美さんプロフィール
認定NPO法人カタリバ代表理事。岐阜県高山市出身、79年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じて様々な教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員会委員。
HP:学校にいけないけど集まろう【カタリバオンライン】

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:飯田りえ

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