「子どもの権利」、日常生活とどう結びつくの?
児童労働問題の先駆者・白木朋子さんにお話を伺いました【前編】

ラシク・インタビューvol.159

特定非営利活動法人 ACE 事務局長・共同創業者 白木朋子さん

子どもの権利条約』をご存知でしょうか?

1989年に国連で採択されて昨年で30年が経ち、さまざまな記事やニュースで「子どもの権利」というワードを目にする機会が増えました。しかし、具体的にどんな内容で、実生活にまで落とし込んで考えたことは…… 正直ありません。実際、日本ではまだまだ認知度も低く、2019年には国連の子どもの権利委員会より、差別や意見の尊重、体罰など多岐にわたる勧告を受けています。そして、この新型コロナウィルスの学校休校要請などもあり、子どもの「学ぶ権利」や「遊ぶ権利」についても、改めて考えさせられる日々です。

いま一度、『子どもの権利』について実生活に伴う形で学び直したい。そこで、学生時代からガーナやインドで児童労働問題の活動を継続されている認定NPO法人ACE(エース)事務局長の白木朋子さんにお話を伺いました。

子どもの権利条約の理念が、日本で浸透しないその理由

編集部:『子どもの権利条約』について、改めて教えて頂けますでしょうか?

 

白木朋子事務局長(以下、敬称略。白木):長い歴史を振り返っても子どもは未熟で、大人と同じ権利を持った存在と思われない過去がありました。しかし戦争や紛争、児童労働や貧困、虐待などによって多くの犠牲者が出る中で「子どもも大人と同じ人間である」そして「目の前にいる子どもたちを救いたい」という世界的な強い決意の元、『子どもの権利条約』として条文化され1989年に国連で採択されました。とはいえ、大人と子どもは身体的、精神的、社会的に発達段階における違いがあることは認めざるを得ません。そんな成長途上にある子ども達だからこそ、保護し、守らないといけないことがあります。

 

編集部:大人の人権との違いは?

 

白木:政治への参加の権利です。政治家になる権利や選挙権はありませんが、社会参画できる権利は子どもにも同じようにあります。子どもがグループを作って活動したり、意思表明したりしてもいいし、自分が何を信じるかの自由もある。それが認められているという意味で、子どもの権利条約は画期的で意義のあるものなのです。採択から5年後の1994年に日本も158番目に批准しました。

編集部:どうして日本は批准が遅かったのでしょう?

 

白木:日本の文化的なものなのか、歴史的なものなのか、社会的な土壌がすごく根深いと思います。その証拠に、今でも子どもの権利の理念はなかなか浸透していません。それもあって、私たちの中にも子どもは「親が躾けるもの」「親のいうことを聞くべき」こういった固定的な考え方が染みついているのだと思います。女性に対しても同じですよね。家父長制の元に、年功序列もそう。子どもや女性に対する見方や権利って、なかなかアップデートされていません。

 

編集部:ジェンダーギャップも121位ですしね……

 

白木:そうなのです。子どもの人権の話をしていて、よく聞かれるのが「子どもに権利を認めると、ワガママになるんじゃないか」と。これは全く別の視点で、権利を認め合うことは、お互いに尊重し合うこと。自分のワガママを通すのではなく、自分の権利を認めることでもあり、同時に他の人の権利も認めることなのです。

 

編集部:本当ですね。ACEの活動を通じて、子どもの権利をどう伝えていますか?

 

白木:ACEは「子ども、若者が自らの意志で人生や社会を築くことができる世界をつくるために、子ども、若者の権利を奪う社会課題を解決する」ことを掲げて活動しています。インドやガーナで子どもたちが危険な児童労働を強いられ、未来を切り開けないでいる。その問題を解決しようと現地で社会を構造的に変え、あとは日本の企業も巻き込みながら、消費者向けに伝えています。

児童労働と育休で学んだこと「全ての人に選択肢があり選ぶのは自分である

編集部:2017年にACE設立から20年を迎えられましたが、この間の変化はありましたか?

 

白木:自分自身の出産・子育てを経て、違うベクトルでの気づきがありました。子どもの権利のことと、どんな人にも人生は選択でき、変えることができることを多くの人に伝えるためにも2018年『チェンジの扉』という本を出版しました。日本でも児童労働はありますし、特に沖縄の方では貧困率が高く、女性の妊娠が低年齢化しているなど、課題も多い。日本の子育て世代に対しても、もっと伝えていきたいです。

 

編集部:ご自身の育休がターニングポイントに?

 

白木:そうですね。育休は仕事をストップさせないといけないから、当時はフラストレーションを感じていましたが、今思えば、世の中や仕事を変容させることにつながる時期。手の中にいる小さな娘を抱きながら「この先、私の人生で何ができるんだろう」とずっと考えていました。そこで「世界を突き動かすなら、今のやり方を続けているだけではダメだ」と気づいたのです。児童労働はSDGs(※)のターゲットの一つですが、個別の村に入って活動していても到底解決にはたどり着かない。プラスチック問題も同じで、今までのやり方では通用しない。そこで現地でのプロジェクトを手放し、やり方を変えてみたら回り始めたのです。

(※)SDGsとは:17の目標と169のターゲットからなるSDGsは、地球上の誰ひとり取り残さず、貧困、不平等・格差、気候変動のない持続可能な世界の実現を目指すユニバーサルな目標。2016~30年までの15年間「持続可能な開発目標」の達成に向けて全世界で取り組んでいる。

 

編集部:子どもを産んだことで社会とのつながりを考えるようになった女性は多いですね。目の前にいる子どもと、その未来が急に現実味を帯びて見えてきますから。

 

白木:そういう意味では、今の日本はまだまだ心配なことが多く…… 子どもの権利の観点から言うと、もっと頑張らなければならないし、通じ合える母たちの理解をもっと共有していかなければならない。そして、母も子どもたちも「自分自身を軸に生きていい」と思えるような社会になるために、この活動を続けていきたいのです。

 

編集部:遠いガーナの世界から、一気に近いところの話に近づきましたね。

 

白木:子どもを産んだ人しか学べない訳ではありませんし、ましてや、女性みんなが子どもを望める訳ではありません。ACEでの交流を通して学んでいる部分もあるけれど、改めて、子育てをする難しさに直面しながら「こうありたい」が見えてくる。だからこそ、こんな経験ができるのはありがたいな、と思います。

子どもをコントロールする前に、その必要性がないことに気づくこと

編集部:子どもの権利と自分の育児をもう少し近づけてお伺いしたいのですが、親はどうしても子どもをコントロールしてしまいがちです。これはどうすれば?

 

白木:大前提として、親というのは、子どもをただ守りたいだけなんですよね。子どもが安全に、確実に、将来に向かって進めるよう、そのための環境を整えてあげたいというのはどの親も考えていることではないでしょうか。しかし、一方で、子どもは子どもなりの世界があるのです。大人は、自分たちの方が知見があり、正しい判断ができると思い込んでいないでしょうか。でも、子どもは自分で判断ができることもあるのです。私も娘の子育てを通して、改めて思いますが、子どもって親が思う以上にいろんなことわかっているじゃないですか。

 

編集部:確かに。そうですよね……

 

白木:それなのに大人はそこを見ようとしないんです。インドやガーナの活動の中でも子どもの参加を大切にしていますが、子ども達が見ている世界にも真実はあるし、大人が判断することが必ずしも良い方向に行くとも限らない。これは、経験する中である意味確信しています。だから、大人も子どもも同じ人間として存在を認めながら、「世の中を一緒に作っていく、協力すべき仲間である」と受け入れたら、コントロールもしなくていいとわかるはずです。わたしもいつもうまくできるわけではないのですが。

 

編集部:「世界を一緒に作っていく仲間である」その視点、大事ですね。

白木:先日、震災後に石巻に作られた『子どもセンターらいつ』へ行ってきたのですが、そこは子どもたちの意見が随所に活かされた施設でした。ルールや設備に関して、例えば、WI-FI一つとっても子ども達みんなで会議をして決めるのです。ボランティアする大人のための行動規範に「子どもができることを、大人が助けすぎない」という項目がありました。これ、すごく大事ですよね。守らなきゃ、と思いすぎて勝手に大人が判断し、子どもの成長を親が妨げているシーン、よくありますから。

 

編集部:耳が痛いです……

 

白木:日本社会全体の風潮として「子どもは未熟だ」「若者には経験がない」といった、見えない抑圧みたいなのを大人が醸し出しているので、子どもだけでなく、若い人たちを息苦しくさせていると思います。結果、政治に対する冷めた見方や参加率の低さにつながっているのだと。

 

編集部:自分もそうされてきたからか継承しているのかと。多くの人は違和感すら感じていない。

 

白木:そうなのです。モデルとかサンプルが身近にないから、変えた方がいいのに受け継いでしまっています。時代背景が変わっているので、子育ての仕方も変化していかないと。これまでは成績や、就職という外からの評価が中心だったわけですが、これからは自分自身が自分の幸せの基準になれるかどうか。そこの考え方を根本的に変えていかないと、自分も幸せにならないし、誰も幸せじゃない。私も考え方をアップデートするためにプライベートとして家族関係や教育方法を「子育て航海術」で学んだことを、日々、仲間たちとトライし続けています。

自分の感情から自分のニーズを読み取り、そこを満たす

編集部:しかし、頭ではわかっているけれど、実態が伴わない時があります。この根深く染み付いてしまっている思考グセを、どう変えていけば?

 

白木:「自分軸でどう新しい世界を生きて行くか」となった時に、私は、自分自身の感情が一つのメッセージと思って大事にしています。これも子育て航海術で学んだことですが、NVC(非暴力コミュニケーション)って聞いたことありますか? 自分の感情から自分が本当に求めているニーズを読み取って、そのニーズを満たしていくのです。子どもの権利ともつながっているので、ACEの考え方に活かせるよう、チームメンバーの研修に取り入れています。

 

編集部:感情を大事にし、そのニーズを読み取る…… というと?

 

白木:自分自身が何を大事にしたくて、何を求めているかを知ることです。例えば、子どもが歯磨きをしなくて、イライラして怒ることってよくありますよね。でも、それって「子どもが歯磨きをしないことに腹を立てている」というより、「自分はスムーズに終わらせて休みたいのに現実が伴っていない」だからイライラしている。そこに気がつけると「自分が早く休みたいなら、歯磨きもそこそこにして先に休めばいいじゃん」となりますよね。

 

編集部:確かに! そうですね。

 

白木:これがわかれば、少なくとも一方的に怒らずに済みます。でもこれはやり方を知らないとできないし、毎日トレーニングしないとなかなか定着しません。失敗することもありますが、その時は反省して「次はもう少し違う風にやろう」と考えられます。この様に、日常生活の中でトライ&エラーしながら実践して、変化していくことができればいいのかな、と。

 

編集部:子どもの権利を守ることにもつながりますね。これを社会に広めるためには……?

 

白木:改まって人に教えると言うよりはまずは自分が実践して、その空気が少しずつ伝わって行くってことで浸透していくしかないかな、とも思います。その一方で、悠長なことを言っている時間はない、という焦りもあります。虐待のニュースも増え、相模原の障害者施設など考えられない事件が実際に起きています。人が体験した痛みが癒されないで怒りに現れ、自分より弱い立場の人に暴力という形で現れてしまっているのですから。

 

編集部:本当ですね。まずは一人一人が、大人であろうと子どもであろうと、自分自身を受け入れながら、相手を認めて尊重し合う。そのことを日々、大切にしていきたいです。

(後編に続く)

<お知らせ>
児童労働についてもう少し理解を深めたい! という方は、こちらの映画がおすすめ。
白木さんたちがACEを立ち上げるきっかけにもなった、2014年のノーベル平和賞受賞者で、インド人の子どもの権利活動家、カイラシュ・サティヤルティさんのドキュメンタリー映画『The Price of Free』。サティヤルティさんが、どのように子どもたちを児童労働から救出し、グローバルなムーブメントを起こしたかが描かれています。インターネットに接続でき、YouTubeにアクセスできる環境であれば、どなたでも見ることができます。アクセスは、こちらのページよりどうぞ。

子どもの権利、児童労働、こう聞いてしまうと、とても遠い世界の話に聞こえてしまいますが、やはり、私たちの一番身近な日常にもその問題は潜んでいるのですね。世界の大きな社会問題に挑み続けている、白木さんだからこその説得力だと思いました。社会の空気というのは、一人一人が作り出している空気です。時代の変化とともに、一人一人が変えていかなければならない時期に来ているのだと痛感しました。まずは子どもも大人もお互いに相手を認め合い、そして自分の感情のニーズを読み取ることから始めたいと思います。

後編は、白木さんがどうやって学生時代から、探究し、行動できたのか。その背景に迫ってみたいと思います。お楽しみに!

白木朋子さんプロフィール
1974年宮城県仙台市生まれ。宮城学院高等学校、明治学院大学国際学部卒業。英国ロンドン大学東洋アフリカ大学院国際教養ディプロマ課程(開発学、比較文化学専攻)、英国サセックス大学・文化環境開発研究所(CDE) 開発人類学修士課程修了。代表の岩附由香氏とともに大学在籍中にACEを創業。開発援助コンサルティング会社での勤務を経て2005年4月より現職。ガーナ・カカオ生産地での事業立案、企業との連携、企業向けの研修コンサルティングなどを担当。消費者教育、エシカル消費の普及にも携わる。著書「子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート。」(2015年)、共著「わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて。」(2007年)(いずれも合同出版)。
HP:認定NPO法人ACE

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:飯田りえ

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