健康や子どもの成長に影響する、夫婦の関係性
こんにちは、夫婦や家族がもっとより良い関係性を築ける活動をしている、システム・コーチの白土栄子です。
前回のコラムでは、
- 夫婦がお互いに持つ勝手な期待が夫婦関係のモヤモヤや不安につながること
- お互いにモヤモヤや不満を募らせつづけると、夫婦関係は徐々に傷み始めること
についてご紹介しました。
しかし、実は、夫婦関係の状態は、思わぬところにも変化を与えるのです……
今回は、夫婦関係がもたらす影響について、見ていきましょう。
良好な夫婦生活は長生きにつながる
まず、健康面への影響です。
ミシガン大学ロイス・バーブルッグとジェームス・ハウスの研究によれば、不仲な結婚生活は、良好な結婚生活に比べ、約35%も病気になりやすく、寿命にして平均4年短いことが分かりました。反対に、良好な結婚生活は“長生き”の傾向にあり、病気にかかる率も低いということも明らかになったのです。
この研究以外にも、多くの医療関係の情報サイトでも、まことしやかに寿命や健康との因果関係がうたわれていますが小さい胸の痛めながら、実は明確な原因は解明されていません。
仮説として、配偶者から受けるストレスが原因とされています。
しかし、私は、「配偶者からのストレス」ではなく、大切な存在である、「配偶者と理解し合えないという孤独」が身体を蝕むと考えています。独房が刑務所の最高刑であるように、人間は生きている限り誰かとつながりたい生き物だからです。
また、この研究の考察の中で興味深いのは、良好なパートナーシップを築いている夫婦は、お互いに相手の健康状態に気を配り、薬や運動を医師の指示通りにできるようサポートし合っていることも、研究者たちの間では周知の事実とされていることです。
ちなみに夫婦関係が良かろうが悪かろうが、パートナーからストレスは受けます。だって、価値観の違う他人ですもの。
しかし、良好な夫婦関係は、根底では「何らかのつながり」があり、世話を焼いたり、焼かれたりで孤独を感じることは少ないと考えられます。
また、人は自分一人のことより、守りたい人の世話を焼いている時に活力がみなぎる傾向があることも、重要な要素かもしれません。
夫婦関係はストレスだけでなく、免疫システムにも影響があることが分かっています。
関係性が良好な夫婦と、不仲な夫婦の白血球の数を調べたところ、良好な夫婦を送っている夫婦の白血球は外敵が侵入するとすかさず増殖することや、ナチュラルキラー細胞(※)も、多く持っていることが分かっています。つまり、良好な夫婦関係は高い免疫力にもつながるのです。
(※)全身をパトロールしながら、がん細胞やウイルス感染細胞などを見つけ次第攻撃するリンパ球
勿論、健康や免疫力については、夫婦関係以外の要因も多々考えられます。
遺伝的な問題もあれば、職場やその他のストレスの影響もあるでしょう。たとえ夫婦仲が良好ではなかったとしても、趣味や友人や仕事といったことに生きがいを見出し、すこぶる健康で魅力的な方もたくさんいます。
しかしながら…… 二人の間に生まれた子どもたちは一体どのような気持ちでその両親をみているのでしょうか。
次は、夫婦仲が子どもに与える影響について、説明していきます。
両親の関係性は子どもの自己肯定感に影響を与える
ワシントン大学の心理学教授であり、結婚と家族問題の権威であるジョン・M・ゴッドマン博士の研究データによれば、夫婦関係が険悪な家庭で育った就学前の子どもは、ストレスホルモン値が非常に高い状態を示すことが分かっています。
また、小学生〜中学生になるにつれて、無断欠席、無気力・仲間はずれ、問題行動、成績不良や不登校等が多く見られます。一連のデータから、博士は夫婦関係の子供への影響について、強く警鐘を鳴らしています。
文化的背景の違うアメリカの研究ではありますが、日本でもスクールカウンセラーや不登校児サポーターの方の話をお伺いすると、不登校になってしまったお子さんのご両親の関係性が改善したことで、学校に再び通えるようになった事例は多くみられるそうで、今後日本でも研究が進んでいくことは間違いないと言えるでしょう。
実際、研究データなんかがなくとも、夫婦喧嘩や自分のイライラが、子どもをどれだけ不安にさせたり、笑顔を曇らせたりしているかを、(私も含めた)母親は全員知るのではないでしょうか?
子どもは発育していく中で、ゆっくりと自分の感情を育んでいきます。両親や周囲との関わりで、愛されている、自分は必要とされている、存在価値を認められていると感じながら、豊かに自分とその感情を育んでいく子もいれば、そうではない環境で育っていく子もいます。
子どものいる夫婦の場合、喧嘩の多くは「子育てに関する意見や負担の違い」が引き金となり、解決策の見つからない言い争いが続きます。しかし、実際喧嘩の根本的要因は、前回ご紹介した通り、本当は背景にあるお互いの勝手な期待。子どもには理解できません。
「自分のせいで、パパとママが喧嘩をしている……」胸を痛めながら、子供達は多かれ少なかれ、そう感じてしまうのです。
長くその状態に置かれた子どもは、「自分のせいで親が喧嘩をしているのだ」、「自分は愛されていないのだ」と感じ、自分を責めてしまうことがあります。
こういった経験が子どもの自己肯定感(自分を自分で大切にする感覚)に影響を与える可能性が高いことは言うまでもないでしょう。
また、多くの場合、夫婦喧嘩の前後では、感情が高ぶり、自分ではコントロール出来ているつもりでも、子供に対しても普段よりもきつく当たってしまったり、時に八つ当たりや、
パートナーに対する不満を口にしてしまったりすることがあります。子どもは周囲、特に親の言動の観察や、親との関係で感情や知性を発達させますから、「両親の関係性」は、無意識の内に、子どもに大きな影響を与えてしまうことは明らかであり、場合によっては、将来の人間関係構築力や、結婚観への影響も否めません。
しかしながら、(自戒の念もこめてですが)私達は常に立派に行動することなんてできません。常に穏やかな、精神的に安心安全無菌状態を365日作ることは不可能です!
私達親にできることは、単に愛情を注ぐだけでなく、自分たちの影響を知り、できる限りの努力と、しかるべきタイミングで子どもと対話(&時にお詫び)をすることも十分考え、接することでしょう。そして、親として完璧じゃなくても、子どもが大切だということは何としても伝えましょう。
夫婦の関係にも知識をつけよう
人は体調が悪くなれば、医者にかかります。悪いところを特定し、時に薬を飲み、生活習慣を改め、良い方向に進む努力をします。人によっては、体だけでなく心の健康を取り戻すべく、仕事を変えたり、引っ越したりする方もいます。これ、普通ですよね?
夫婦関係も同じです。自己流で判断せず、自分の健康と同じように、パートナー関係を築くための“行動”をして欲しいのです。私は夫婦をご支援する中で、良好な夫婦関係を築くための”知識”をもっともっと活用して欲しいと願っています。
現代では、心や人と人の関係性についても、多くのことが分かってきています。夫婦の関係性によっては、離婚や、距離をとった結婚生活が最上の選択なこともあります。しかし、その前に、先人たちの知恵を知り、活用し、自分たちの状態を冷静に捉えてから検討しても遅くはないと思うのです。
次回からは、実践的な知識について触れていきますが、手始めに、良好な夫婦関係につながる習慣をご紹介したいと思います。
まずは夫婦に対話と休戦の習慣を
一つ目は、対話の習慣です。
パートナーと、落ち着いて話をする時間を定期的に確保して欲しいのです。
我が家の事例をお話すると、私は夫に五月雨に夫に話しかけてしまうことが多々ありました。一方で夫は、24時間体制で仕事をしているため、いつ話しかけても、気もそぞろ。
私としては、「今相談したい、解決したい、目の前にいるんだから聞いてよ!」なのですが、夫からすれば、仕事に集中している時に、色々な話をバラバラされてもしんどい。結果、ぶっきらぼうに感じる対応をされ、私の気持ちはヒートアップ! 喧嘩に発展していました。
そこで導入したのが家族会議です。毎週土曜日の夜か朝に、ゆっくり話す時間をとっています。テーマによっては子ども達も参加します。スケジュール合わせだけの時もあれば、娘の学校や息子の保育園について、さらに仕事や旅行の計画まで、内容は様々。予定を予め決めているため、お互いにゆっくり時間がとれます。
日常、夫に「これは変えて欲しいな」と思うことは、瞬時に口にせず、土曜日の家族会議に持ち越すこともあります。逆に、いったん時間を置くと、「夫が悪いと思ったけど、私の問題だった」なんてこともよくあります。
いずれにせよ、家族で話すことは、当たり前のようで案外疎かにしがちです。結果、いつの間にか、パートナーと何を話したらいいか分からないなんてことにならないよう、対話自体を習慣化されることをお勧めします。
先にご紹介したジョン・M・ゴッドマン博士は1日20分をパートナーのために使えば、スポーツジムの3倍の免疫力が得られると言っています。毎日とは言わないまでも、週に一度だけでも、夫婦と家族、そしてご自身のために時間を使ってみてください。きっと、パートナーとの関係が変化してくるはずです。
二つ目は、喧嘩の際の休戦ルールについてです。
言葉は武器です。お互いに感情に振り回されて使うと、大して本気でもないのに「相手を攻撃する」ために、とんでもないことを言ってしまうことがあります。みなさん、覚えありますよね?
時にはそれが、致命的な一言となり、夫婦関係の破綻につながることもあります。
「あ、揉めたな」と感じたら、暗黙のルールで、これまた20分以上休戦してください。どちらかが「もう、不毛だから止めよう」と提案すると、提案された方がイラっとする可能性があるので、共通ルールとして、揉めたら20分以上、物理的に離れてください! コーヒーを飲むもよし、外に出るもよし、クッションを殴るもよし(笑)
とにかく相手から物理的に離れて一人で感じて欲しいのです。そしてその時間は、相手が如何にダメか、自分が如何に頑張っているかを頭でぐるぐるするのではなく、「今、自分は何が満たされなくて、感情が高ぶったのか。」を考えて欲しいのです。本質的には、パートナーの行動にイライラしたのはきっかけに過ぎません。イライラを発動させた自分の中の「満たされない何か」の方が重要なのです。
この話は、また別の機会にお伝えしていきますが、相手の行動の何に頭に来たかを話して相手を攻撃するよりも、何が満たされないかという期待を話した方が、少なくとも夫婦関係においては、建設的です。
具体的には、夫の帰りが遅いことを「父親としての自覚が足りない」と攻撃するよりも、「もっと一緒に子育てを分かち合いたい」、「自分は疲労困憊なので助けて欲しい」という期待を巡って話す方が、穏やかな対話になりそうな気がしませんか?
夫婦コーチングでは、必ずご提案していることですが、クライアントさんからは、「不満や攻撃ではなく、期待や願いから話したほうが、パートナーも自分も、優しい気持ちになれる気がする」といった感想を良くいただきます。是非試してみてくださいね。
いつだって、お互いの意思さえあれば「夫婦の関係性」は築き直せます。
次回は更に、夫婦がお互いを深く理解しあう方法について、ご紹介していきます。