『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』
著者・水谷さるころさんに聞く家事シェアの極意
ラシク・インタビューvol.129
水谷さるころさん
家事シェア。
「仕事に忙しくて家事をしてもらえない」「負担が片方に偏っている気がする」など、ご家族やご夫婦の間でこの問題に頭を悩ませている方も多いことと思います。
そこで編集部は、LAXICの母体であるノヴィータの代表であり、一人のワーキングマザーでもある三好と共に、2月に発売されたコミックエッセイ『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』の作者であるマンガ家・水谷さるころさんに家事シェアの極意をお伺いしてきました。
家事シェアの極意は「やらないこと」

左:三好 右:水谷さん
編集部:『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』ではバツイチ同士の事実婚で再婚したさるころさんとパートナー、ノダDさんの家事分担に関する実験的な日々が描かれています。男性が炊事担当・女性が掃除洗濯担当という、日本ではまだまだ珍しいタイプと思われる家事分担になった経緯について、改めてお話いただけますか。
水谷さるころさん(以下、敬称略。水谷):私は初婚の時に、女性がきちんと家事をしなければならないという呪いのような思い込みがすごかったんです。それで実際きっちりと家事をこなしていたのですが、離婚してから、実は全然炊事をしたくなかった、と気が付きました。
掃除については、自分が整頓された部屋に住みたいので離婚後も難なく出来ていたんですが、ただ、自分のために食事を作れなくなってしまったんです。3年半ずっと夫のために毎日ご飯を作り続けた結果、一人になった途端に鍋でお湯を沸かすことすら出来なくなり、ずっとカップラーメンを食べ続ける生活になってしまいました(笑)
でも今のパートナーは付き合い始めた時に「カップラーメン生活はよくない。俺が食べたいから作るよ」と言って食事を作ってくれるようになり、その流れで再婚後も、炊事を担当してもらうようになったんです。
ノヴィータ代表 三好(以下、三好):その経緯については私も読ませていただきました。さるころさんの本を家にそっと置いておいたら夫もいつの間にか読んでいて驚いています。
水谷:ありがとうございます。三好さんの旦那様は家事シェア、いかがですか。
三好:私の夫は結構自由が利く仕事で、家事は結構するんですよ。もともと私があまり家事をしない方なんです。
水谷:やっぱりそれですね! 「どうやったらうまく家事分担ってできるんですか」とよく聞かれるんですけど、”やらない”が一番なんです。
世の中の家事シェアが上手くいかないほとんどの原因は”やっちゃう”なんですよ。「気になる」や「我慢できない」などの理由で、相手が動くのを待っていられず「なんでやらないの!」と言いながら自分が動いてしまう。それが原因です。
三好:本当にその通りだと思います。
水谷:私は初婚の時にすごく頑張っていたので、やってしまう人の気持ちも分かります。ただ、それと同時に、”やっちゃいけない”とも強く思います。”やらない”よりも”できない”のは最強です(笑)
一人で抱え込まずに、大変だと思ったら早めに伝えることが大事

さるころさんと事実婚のパートナー、ノダDさんの家事分担
©水谷さるころ/幻冬舎
三好:私は産後3か月で子連れ出勤を始めた直後、1週間家事も頑張ってみたんですね。でも、夫の帰宅前に家を全部片付けて綺麗にして、完璧に家事をこなそうとしていたらとても疲れてしまいました。
「これは無理だ! 続けられない!」と分かって、夫に相談したら「俺は帰ってきて、家が綺麗じゃなくてもいいよ」と言われ、「頑張らなくちゃいけない」というのは私の思い込みだと気付かされた、という経験があります。
最近は私が家事をほとんどしないので、夫がいつかキレるのではないかとちょっとひやひやしていますけど(笑)
水谷:気付きが早い!
三好:もともと主婦偏差値が低い自覚があり、上手く家事を出来ていなかったんですよね。それで1週間でギブアップ。私が期待値を下げるのも早かったです。
水谷:早めに弱音を吐いて「出来ません」宣言をしておくというのは家事をシェアする上ではすごく大事です。でもみんな「頑張って私がやらなきゃ」というプレッシャーが凄くて、一人で抱え込んでしまいます。そうすると、相手は好きでやっているのか、嫌だけど仕方なくやっているのか分からなくて、大抵の場合、好きでやっているのだと思われてしまうんですよね。
抱え込むだけでは理解されないので、弱音を吐くなり大変だとはっきり伝えるのは早めにした方がいいです。
三好:夫婦とはいってもやっぱり他人、別の環境で育った別の人なので家事に対して基準が違うんですよね。夫から「片付いてなくてもいいよ」と言われて、初めてそう気付きました。
私の母はきちんと片付ける専業主婦をしていたので、それがスタンダードだと思い込んでいたんです。本当は洗濯のタイミング一つとってもそれぞれの家庭によって違います。
私はあの1週間に、家事水準について早めに合意が得られたから良かったんですけど、家事の大変さについて何も相手に伝えていないのに「気付いて欲しい」という話はよく耳にします。「これだけ大変なのに」とか「見えない家事がある」とかよく言いますけど、実際には「見えていない」だけなんですよね。
水谷:本当に見えていないだけ。悪気も何もないんです。でもそこで、何も言わず我慢し続けると、いつか限界が来て怒ってしまうんですよね。
ただ、突然怒ると「どうして?」と思われて、お互い意図しない展開になってしまうかもしれません。怒ってしまう前に「何を不満に思っているのか」「どこを改善したいのか」など最初に提示しないと、話し合いをしようにもスタートラインが食い違ってしまうんです。
私たちは我慢するのが正しいと教育されてきているから、自然と我慢するという選択をしてしまいます。でもそれがそもそもの間違いなんです。我慢しない。一人で頑張っちゃダメなんです。
「頑張ってる私ブランディング」には要注意
水谷:私は初婚の時に、相手のことが好きだから私が家事をやればいいと思っていました。自分が動いてしまえば、夫は家事をしてくれないという現実と向き合わなくてよくなるんです。
それに、大変な方がメンタルが楽な時があるんですよ。ご褒美として「私、頑張ってる!」という自己肯定感が得られるんです。そのご褒美感覚が勝っている時は大変でも家事と仕事や子育ての両立が出来てしまいます。
でも、限界を迎えて「もう出来ない!」と思った時にご褒美は消えてしまい、後に残るものは膨大な量のタスクだけです。
頑張らないことができない人は、「頑張っている私」というご褒美のために動きがちです。「あの子はあんなに頑張っているのに、旦那さんは何もやらないんだって、大変だね」というような、周囲からの評価が欲しくて頑張ってしまう人は、私だけではなくて世の中にいますよね。
三好:確かに。
水谷:でもそれって「頑張ってる私ブランディング」なんです。本当は「頑張らなくても私は私として評価されている」という気持ちがないと、パートナーに対等に家事をお願いしたり、シェアすることは出来ないんです。けれどもそれは、ある程度の自己肯定感がないと難しいことです。
私は、初婚の時はその「頑張ってる私ブランディング」にかなりしがみついてしまい、離婚後は毎日反省会をしていました。
私の両親は父が稼ぎ、母が専業主婦というスタイルの夫婦で、とても仲が良かったんです。そのためか、私は「結婚したら幸せになれる」「家事は妻の仕事」と思い込んでしまっていました。結婚にまつわる様々な問題点を事前に考えていなかった初婚の結婚生活は、もう頑張れないと気付いてからは本当に辛かったです。
結婚は”大人高校”への入学
三好:いろんな価値観や事例を知っておくことは大事ですよね。私は32歳で結婚するまで、様々な事例を見てきたことが活きたのかもしれません。
水谷:気付きが早いですよね。頑張らないのは大事。
三好:1週間で家事をギブアップしたのは夫もすごく覚えていると思います。「シンクにモノ溜まってちゃダメでしょ」という自分の思い込み、あれは一体何だったんでしょう。別に誰からもそんなことは言われていなかったんです。
水谷:結婚した途端「素敵な奥様にならなくちゃ。ちゃんとしなくちゃ」というような呪いをかけられてしまうことがありますよね。結婚することで「家族を持ち、責任感を持ち、あなたはちゃんとした人なんですよ」と承認される感覚がすごく強い。
結婚式って”大人高校の入学式”みたいですよね。結婚した途端に、大人高校に入学して大人校則にがんじがらめにされてしまうんですよ。
三好:中には留年する人もいますよね。
水谷:私は離婚して再婚は事実婚なので、今は大人高校フリースクールに在籍中という感じでしょうか。いろんな選択肢があるんですよ。
三好:結婚ってゴール感がすごいですけど、でも本当はスタートじゃないですか。私は結婚しても特に何も変わらなかったので「あれ、今から何かするんだっけ」と思うくらいでした。全然ゴールではないと思います。
水谷:「専業主婦になって夫を支えるのが生きがいです」という生き方は、それはそれで素晴らしいことです。ただそれが無理なタイプの人もいます。世の中は”ワーママ対専業主婦”みたいな対立構造をすぐ作りたがるんですけど、みんなそれぞれ違う生き方でハッピーならそれでいいじゃない、そう思います。
保守的な型にはまってぴったりという人もいれば、はまらない人もいます。どっちが正しいというわけではないし、旧来的なやり方が間違っていると言いたいわけでもない。ただ、旧来的なやりかた、これまでの多数派とは違う選択肢も当たり前な世の中になるといいなと思いますね。
”愛”というぼんやりした概念に甘えない

日本ではまだ珍しい「子供の離乳食を作るお父さん」であるノダDさん
©水谷さるころ/幻冬舎
編集部:家事分担から結婚観に至るまで様々なお話を聞かせていただきました。家事分担に話を戻して、最後にまた一言お願いします。
水谷:家事にせよ子育てにせよ、家庭ってタスクがたくさんありますよね。仕事だったら相手に対してタスクの見える化をして共有したりと論理的に進めるのに、家庭のこととなると途端に”愛”というぼんやりした言葉を言い出す話をよく聞きます。
三好:「好きだからできるよね」とか。
水谷:「これはなんとなくお前がやることだ」というような甘えがあるから、すれ違いが起きてしまいます。
でも家庭というのは仕事に例えてみれば、「50年のスパンで事業展開を考えます」という話になりますよね。その中で子育てプロジェクトは約20年。50年や20年というのは長く感じませんか。そんな長期間パートナーシップを取っていく相手なのに、タスク分担などに関するコミュニケーションが少ないというのは、運営がすごく雑ですよね。雑なら齟齬がたくさん出るのは仕方ない。長期プロジェクトを成功させるためには、やっぱり”家族というチーム”が丁寧に話し合った方がいいと思います。労力というコストがかかるので、大変ですけどね(笑)
水谷さるころさんの新刊『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』は大好評発売中!
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「頑張ってる私ブランディング」「結婚は大人高校への入学」など、マンガ家さんらしくユニークな言葉を散りばめた楽しい内容でありながらも、家族とのコミュニケーションをきちんととりたいと改めて考えさせられる対談でした。
新年度も始まり、忙しい中でもこれまでの体制を見直すなど、家庭内でのタスク見直しを図ってみてもいいかもしれませんね。
- 水谷さるころさんプロフィール
- イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。著作は旅チャンネルの番組「行くぞ! 30日間世界一周」の顛末をマンガ化した「30日間世界一周!」(イースト・プレス)や、アラサーの10年間に初婚・離婚・再婚(事実婚)した経緯をまとめた「結婚さえできればいいと思っていたけど」(幻冬舎)、産前産後の夫婦関係を描いた「目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで」(新潮社)など。その他旅行記多数。
息子との日々を描いた育児ブログ「マイル日記」はほぼ毎日更新中。趣味の空手は弐段(黒帯)の腕前。 - HP:水谷さるころ
ワーママを、楽しく。LAXIC
文・インタビュー:石林グミ