大学を街のプラットフォームに。
東京学芸大、正木先生と話す教育の未来

ラシク・インタビューvol.125

正木 賢一(東京学芸大学 准教授)さん

日本の教員養成を担う中核的な国立大学として知られる東京学芸大学。多くの教育者を輩出している専門性を活かし、キャンパスのある小金井市を巻き込んで子育て関連事業を実施するなど、パパママが思わず興味を示す施策を行っているようです。

中でも、芸術・スポーツ科学系美術・書道講座 准教授の正木賢一先生は美術・デザイン教育を専門としながら、生涯教育の推進にも注力しています。

大学と地域との取り組みや次世代教育に関する様々なお話を正木先生に伺いました。

デザイン事務所から大学に戻って20年。
学内広報誌の発行から少しずつ変化を起こしていった

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編集部:今日はよろしくお願いします。まず正木先生は『芸術・スポーツ科学系美術・書道講座』で教鞭をとっているとのことですが、専門はどのような分野なのでしょうか。

 

正木賢一先生(以下、敬称略。正木):専門領域としているのはグラフィックデザインですが、実際は紙やウェブなど多様なメディアを通じて、どのような表現教育が可能かを追求していく「メディア表現教育」をテーマに研究を進めています。また、家庭と学校と地域をつなぐ次世代教育のプラットフォーム化を図る事業にも参画しています。

近年は、「変人類学研究所」なるものを立ち上げて「クリエイティブ教育(変差値教育)」を様々な分野の方々と探求したり、教育の未来像を巡ってAI時代の教育観についても研究活動を始めましたね。

 

編集部:聞けば聞くほど「何をやっている人なんだろう?」の謎が深まりますね。

一体どのようなキャリアを経て、今のポストにいらっしゃるのでしょうか。

 

正木:大学卒業後、新卒で大変有名なデザイナーの事務所に入ったのですが、プロとしての厳しさを知る職場でした。そこで6年ほど修行してから、大学に戻ってきたんです。一度企業に入ってから大学をあらためて職場として見てみると、時間の流れが本当にゆっくりで、独特のゆるい空気がすごく不思議に思えました。

 

そんな中、大学では広報戦略室が立ち上がることになり、当時の学長先生から誘われ僕はそこに入ることになりました。しかもメンバー内で一番若いという理由で室長を命じられました(笑) こうして大学広報への関わりを機に、デザイン教育と連動した大学運営がスタートしました。中でも学内広報誌『TGU』の発行は、大変有意義な活動となりました。企画や取材、データづくりにいたるまで、ほぼ学生が手がけるという編集方針が功を奏して、それまでの学内広報誌以上にアピール力を持ったメディアと成長してきました。

 

その後、学生のメディアづくりをサポートするのための講習会をやりましょうという話が持ち上がり、放課後、フォトショップやイラストレーターを学習する時間を設けました。もう7〜8年続けてきましたが、今はウェブ媒体での発信力を高める内容にも発展しています。こうした環境が「メディア表現教育」の実践の場として活かされているんです。

モノづくり、メディア表現の原点は小学校の頃の壁新聞作り

編集部:やっと『メディア表現』のイメージがつかめてきました。

ただ、先ほどおっしゃっていたように「大学独特のゆるい雰囲気」って慣れてしまえば、すごく心地よさそうですよね。そこで先生がモノづくりや表現に対して、改善してみよう! とかこんなことをやってみたら面白いんじゃない? と進めたのは何がきっかけだったのでしょうか。先生の原動力はどこにあったのかな…… と。

 

正木:僕の原体験として印象に残っているのが、小学校のときの「壁新聞作り」なんですよ。

担任の先生から「以前、私の受け持っていたクラスが壁新聞作りを頑張っていたよ!」という話を聞いて、面白そうだな、僕もやってみたいなあと言ったら「編集長をやってみたら?」と言われて(汗) 始めることにしました。

ただ、小学生の定番、四コマ漫画を入れて、すごい長い編集後記があったり…… みたいな感じは何だか嫌だったんです。どうせ作るならと思って、先生に相談したら「壁新聞じゃなくてガリ版刷りが良いよ」って言われて。最初はその意味が理解できなかったけど、これは壁に貼る新聞じゃなくて、本物の新聞のように「印刷して、ほぼ毎日発行する」ということだったんです! さすがに一人ではできないから友達を4,5人誘って、「うちでおやつ食べようぜ」なんてそそのかしたりして(笑)

出来上がったものを朝一番に登校して、クラス全員の机に配る時は本当にワクワクしました。その楽しさが「メディアを通じて何かを伝えたい」という気持ちの原点になっているのかも知れませんね。

 

メディアリテラシーといった難しい話じゃなくて、読んでくれた人がどんな反応をするのか、何を取材して提供したらよいのか、どんな見出しにしたり、どんなイラストを描くか…… 極めて自発的で健全なインプット&アウトプットの活動に終始関わりが持てる、それが「メディア表現」の魅力です。それも自分たちのチーム力で成し遂げたという実感は一生残ります。

ここに子育てや教育の本質があるように思えます。きっかけを与えて、後は放っておくぐらいがいいんじゃないかなあ。大人が必要以上に介在しすぎてしまうと、子どもたちの遊び心を邪魔してしまうし、自分たちで学びたいという知的好奇心も奪いかねない。

僕にとっての新聞作りは義務ではなくて、ただ楽しい、夢中になれる「遊び」であり「学び」だったんですよね。

 

編集部:放っておくことが一番…… 子育ての真理をついていますね。

 

正木:2005年の発足当時から関わっている「NPO東京学芸大こども未来研究所」では、「遊びは最高の学び」をスローガンに掲げています。これは子どもの遊びを支援するとともに、それを取り巻く大人たちの学びも提供していくためです。

そこで、子どもが何かに夢中になっているときのように大人もモードチェンジできることが大切だと考え、それを『こどモード』と呼んでいるんです。こうした理念に共感していただいた企業や行政とのコラボレーションを通じて、教材開発や人材育成プログラムの実践に取り組んでいます。

 

最近思うことは、AI時代に向けた教育の未来像を描く中で「自己活用力」が重要なキーワードだと。社会動向の曖昧さ・不確かさが増す中で、自分らしく生きるためには、自分の個性や能力、価値観を必要な時に必要なだけ活用できる力が求められるでしょう。

「自己活用力」は、どのような遊び体験から派生し、どのような成長環境で育まれるのかを問い続けながら、実際に子どもや大人との関わり大切にした研究実践と理論の構築をしていけたらと考えています。

 

先ほど「子どもを放っておくことが一番」と言いましたが、その前提として重要なのは「大人がどれだけ楽しんでいるか」ということです。まさに『こどモード』な大人であるということです。子どもとの豊かな関わりは、自分の個性を面白がり、自分にしかできないことを重んじる、そんな「自己活用力」を高めるクリエイティブマインドから生まれます。このあたりは「変人類学研究所」でも実践しつつあるのでぜひご注目を!(笑)

 

また、「メディア表現教育」の一環として、私の研究室では学生たちに「マチ友」を探すよう促しています。「マチ友」とは、学生以外の地域市民や商店街の店主、市役所関係者など様々なきっかけから知り合い、集い、共に活動をする仲間です。

この「マチ友」を通じて、実際に市の美術館の広報デザインや商店街イベントの運営や告知チラシの制作依頼を受けたり、地域NPOとのコラボレーションが生まれたりしています。有意義な「メディア表現教育」には「地域」の存在が欠かせませんね。多くの学生が「マチ友」づくりを試みることで、大学がある地域の付加価値を高められればなと考えているんです。

「何をやっているか分からないけど多様な大人たち」との接触が
これからの時代、子どもにとっての財産になる

編集部:小金井市は教育の街という声も聞いたことがありましたが、そういうことだったとは。

地域の人の生の声やリアクションはどんな感じでしょうか。

 

正木:このあたりは教育熱心な方が多いし、NPOの数も多いので、小金井市は教育の街として大きなポテンシャルを感じています。行政に頼るだけじゃなくて、「自分たちの市民力で何とかできるんじゃない?」というエネルギーもあります。行政サイドもただ予算をつけるだけじゃなくて、一緒に解決していきましょうっていうスタンスの方々もいらっしゃいます。

一方大学サイドは学生がキーになると思います。

学芸大の学生は、地頭が良く自己肯定感が高いです。ただ、学級委員長や生徒会長を率先して引き受ける真面目で正義感の強い、いわゆる優等生タイプの子が多いのも事実です。これって、これからの教育における多様化を考えると、現場に携わる上では大きな足枷にもなりかねません。

だから今一度、これまで保守してきた既成概念の教育論や画一化された教育理念を学生時代に解体して再構築して欲しいと願っています。自らの考えと意志によって行動し体得した経験を活かせるクリエイティブかつインクルーシブな教育マインドを持って社会へ飛び立ってほしいですね。

 

編集部:子育てする上で、住んでいる街と接点を持つって理想的ですよね。

小金井市に限らず、自分の住んでいる街とうまく交流するには何から始めたらいいでしょうか。

 

正木:自分の子ども時代を思い返すと、「毎週少年野球に来ていた監督やコーチのおじさん、あの人何だったんだろう?」みたいなことが結構あって(笑) 我が子でもないのに毎週練習のために時間を割いたり、一緒にご飯を食べたり、地域の子どもに投資する部分があったような気がします。

先にお話したように、現在、駅前の再開発に伴いアフタースクール事業のプランを進行しています。「教育の街、小金井!」です。家庭と学校と地域をつなぐ教育のプラットフォームづくりを目指して、「遊びと学び」のプログラム開発に取り組み始めました。

そこであらためて思うのは、このアフタースクール事業のプランを成功させるためには、子どもを取り巻く多様な大人たちが必要だということです。普段何をしているのかわからないけど少年野球の監督に情熱を注ぐ大人、凧揚げや紙飛行機、ヨーヨーやベーゴマが得意な大人、昆虫や植物にめちゃめちゃ詳しい大人などなど。好奇心に満ちた子どものように遊び、面白がり、学ぶ、まさに『こどモード』な大人が息づく街になればと思うんですね。

 

生涯学習的な意味も含めて、一生ずっと遊び、学びあえることは、これからの幸せ観に大きく結びついているはずです。

親子間でも、夫婦間でも、友達関係でも、公共性のある中で、何かできることはないだろうかって、ワクワクするような問題発見につながっていくといいですね。

私自身も『こどモード』な大人の一員として「考動力」を発揮し続けるよう頑張ります!

大学の准教授ということでこの日の取材はかなり高尚な話になるのでは……?と身構えていましたが、正木先生のお話は、どれも日常生活に紐づいた親しみのある話題ばかり。
特に、自分の子ども以外への投資という話は、私自身もこれからどのように住んでいる街と関わっていこうかと考えるきっかけにもなりました。
学芸大と正木先生の取り組みについて、今後またお話を聞かせてもらおうと思います!

正木 賢一(東京学芸大学 准教授)さんプロフィール
正木 賢一(東京学芸大学 准教授)

1970年、東京生まれ。東京学芸大学卒業後、デザイン事務所を経て現在にいたる。デザインと美術教育を主軸に「メディア表現教育」の実践的研究に取り組む。NPO東京学芸大こども未来研究所副理事、NPOアートフル・アクション理事、絵本学会所属。企業のキャラクターやウェブデザイン、VI計画などを手がけ、著書に絵本「carnimal」がある。

HP:[研究室サイト]

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:真貝 友香

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