【サイボウズ社長 青野慶久さん×女性活用ジャーナリスト 中野円佳さん】
実は積極的イクメンじゃない!? 青野社長と、
2つの園に通う2児の子育てと仕事に奮闘する中野さん 本音で語る子育てと働き方、ダイバーシティ

ラシク・インタビューvol.46

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久さん

女性活用ジャーナリスト / 研究者 中野 円佳さん

長時間労働是正、ダイバーシティの大きな波が来ているとも言われています。グループウェア国内トップシェアを誇り、ダイバーシティに取り組むサイボウズ株式会社の青野慶久さん(子ども6歳・4歳・1歳)と、女性活用ジャーナリスト・研究者の中野円佳さん(子ども3歳・0歳)。共に幼児や小学生の子育て中で、共働きであるお2人に、子育てと仕事のバランスの取り方、お子さんの成長に伴う生活の変化にどのように対応されているかなどについて伺いました。

パパにとってアウェー感が強い!?小学校
「小1の壁」の前には「3歳の壁」もある

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久さん

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久さん

ラシク編集長・宮﨑(以下・宮﨑):青野さんは今年一番上のお子さんが小学校1年生になられたと思うのですが、いわゆる「小1の壁」というような問題には直面していますか?

青野さん(以下・敬称略):まず区の育成室(学童保育)に入れてよかったなと。うちの子どもの小学校は、6年生は2クラスなんですが、1年生は4クラスで、年々子どもが増えているんですよ。学童を増やさないと受け入れられない。今年新設された育成室に入れたので、なんとかセーフでした。

中野さん(以下・敬称略):特に激戦地域では、区の学童に入れないから民間の学童を探すケースがありますが、3歳くらいから申し込むという世界があるみたいなんです。

青野:すごいですね。予約待ち状態。

中野:公立の学童の枠が確実に確保されていて、質がよければ、そこまでみんなあおられないと思うのですが。

また「小1の壁」の1つである学童の問題の前に、「3歳の壁」というのもあります。今、2歳児までの小規模保育を増やす動きがありますが、3歳児になったら追い出されるので、保活をし直さないといけないんです。0歳で保育園に入れなかったら、家で在宅ワークをするという形を取ることもできるかもしれませんが、3歳児がいたら仕事になりませんよね。

我が家も「3歳の壁」に直面し、上の子の3歳児クラスからの園と、0歳の下の子の保育園探しをし、結果的に2人は別の園に通うことになりました。0・1・2歳の枠が足りないから国の方針で小規模保育を増やしているわけですが、3歳児クラス以降の預け先への接続が確実でないと、保活を0歳でやり、3歳でやり、さらに小1の壁というふうになってしまいます。

宮崎:青野さんは小学校の入学説明会に行かれたんですよね。どんな感じでしたか?

青野:保育園より小学校の方が、父親が行くとアウェー感が強いですよね。保育園は基本共働きだからパパ友も結構いて、「お互い大変ですね」「今度飲みましょうか」みたいな話になるけれども。小学校の準備説明会に行ったら「なんかアウェー感強いぞ!?」と。この前もPTAの集まりに参加したんですが、全然違う空気を感じましたね。僕の場合は、妻が行けっていうから行っているだけなんですが(笑)。

中野:お子さん3人いたら、やはりやっていただかないと……(笑)。
私は、子どもが1人の時は私1人でも回せたのですが、2人目になるとまず出産時の入院から、物理的に上の子の世話ができず、それを機に夫の当事者意識が強くなった気がします。今回、保育園が2人分かれてしまったことは大変ではありますが、それも「1人では絶対無理だから」と保育園への送りを夫がやらざるをえなくなったという意味ではよかったかもしれません。

宮崎:青野さんが小学校の準備説明会に行かれたということを、いざ自分に置き換えてみると、学校関連の用事などを、妻側が「自分がすべきこと」だと勝手に捉えて、1人でやってしまっている側面もあるなと思ったのです。

青野:そうですね。そういう意味では、我が家は先進的なんですよ。
僕は実は、戸籍名は妻の姓なんです。結婚するときに「私苗字変えたくないから、あなたが変えて」って。普通言わないでしょ(笑)。

宮崎:青野さんはすごく柔軟性がおありなんですね。

青野:僕は受けが強いんです。いろんな球を投げられても、何とかつかむんですよね。名前変えたら「何か起こるかもしれない、おもしろそう」という期待感もあるんです。アウェーだと分かっていてもPTAに僕が行ってみたらどんな空気になるかな、とか。
我が家の場合はそういうバランスでやっていますが、世の中の話を聞くと奥さんの方があきらめちゃって、夫に家事や育児を教え込んでほめてなんてめんどうくさい、言うぐらいならやった方が早い、ということもよく聞きますね。

昭和の価値観が諸悪の根源!?
浸透しにくい男性の育休

女性活用ジャーナリスト / 研究者 中野円佳さん

女性活用ジャーナリスト / 研究者 中野円佳さん

中野:社長になられてからお子さんが産まれていますよね。社長だからやりやすいという面もあるのではないでしょうか。一般的な世の中の夫婦の場合だと、夫の上司の理解度にかなり左右されるという問題がありますよね。

青野:よく言われます。大企業に入った大学の同級生なんかだと、男性育休なんてまず取らないですよね。取ったら何が起こるかわからない。

僕はよくいい人みたいに勘違いされるので包み隠さず言うんですけど、イヤイヤやってるんです(笑)。僕自身は頭の中は昭和の価値観だし、まぶたが落ちるまで働いていたいというような感じ。でも時代的に男性も子育ても家庭のこともやらないといけないということがわかったので、自分の中で葛藤しながらも歯をくいしばってやっています。

中野:そもそも一般企業だと、昇進が遅いので現役子育て中で社長や役員になるという事例が少ないですよね。昭和の価値観や経験を引きずった人ばかりが上にいることが、諸悪の根源(笑)。

青野:僕は2010年に第1子の育休を初めて取ったのですが、その少し前に文京区の成澤区長が、地方自治体の首長として初めて育休を取られたんです。その後、自治体の首長が次々と育児休暇を取り、今ではそれが当り前になりつつあります。

でも、企業は違う。僕が育児休暇を取ってから、上場企業の社長で取った人は聞いたことがありません。社長だったらやりやすいという側面があるなら、育休を取る社長がバンバン出てきていいはずなんですけど、実際には出てこない。そう考えると、社長でもやりにくいんですよ。
僕も、会社の宣伝になるんだったらやろうかなという部分もありましたし(笑)。
でも、若い人が男性育休取るのをためらっている時は「とりあえず取っとけ。必ず社内で認められる日が来るから」って言ってますよ。

中野:そうですよね。優秀な人にどんどん取ってほしいです。

「今日も生きている」ことこそが大切
家庭で作るビジョンって、ゆるくていいのでは?

宮崎:例えばお2人はご家庭で、家族としての将来の目標やビジョンを話し合うことはありますか?

青野:僕は、目標の共有はできていないですね。駒崎さん(フローレンス代表の駒崎弘樹さん)とかは夫婦で将来について話し合っているみたいだけど。何なんだろうこの差は。

中野:不確定要因が多すぎて、ゴールって設定しにくくないですか?夫婦で働き続けるのは大前提として。

青野:家庭で作るビジョンは、ゆるくていいと思ってるんですよ。まずは生きていることが大事。今日も家族全員生きているよねって。子どもが熱出してご飯食べられなくても、まあ1食飛ばしても生きているからいいかみたいな。ゆるいゴールがまずないと、細かく決めれば決めるほどどんどん生きづらい家庭になっちゃうと思うんですよ。

今朝も小1の子が宿題を入れた連絡帳袋を忘れていって。僕からすると大笑いで「忘れよった!」という感じなんですが、妻は大慌てで。「大丈夫だよ。学校でアッと気づいて、それが新しい学びになるよ。命に何の別状もないし」と。

そう思うようになったのは、2人目の子どもが4歳なんですけど、小柄で身体も丈夫じゃなくて。この子に何を求めるかと思った時、「生きていてくれさえすればいい」と思ったんです。

中野:同級生のパパが言っていたことを思い出しました。1人目の時はあれもしなきゃ、これもしなきゃと思っていたけど、2人目は「実験だと思ってる」と言っていたんですよね。「1人目と違うことしてみたらどうなるかな」と楽しむような感覚。それくらいの捉え方をしたほうが気が楽かも、と共感しました。

子育ての課題は次々と「過去のこと」に
解決のために当事者意識を持ち続けるには

宮崎:中野さんは、保活の大変さなど入園前に悩んだことも、どんどん過ぎ去ったことになってしまうと書かれていたことがありますよね。

中野: 私は今、ワーキングマザー代表のような形で色々な会議に呼ばれるのですが、そうやって前面に出たとたんに、「ザ・当事者」の人たちからはちょっと違う立ち位置になるので、永遠に真の意味での当事者が発信することはできないのかもしれないと思っています。加えて、子育てをしているとどんどん新しい問題が降りかかるし、とにかく忙しい。構造的に、当事者の声っていうのはなかなか反映されにくいものだと最近痛感しますね。

特に子育ての問題は、そこで解決しないと、ゆくゆくは自分の子どもたちの世代に問題が引き継がれることになるので、それは当事者も、当事者を過ぎた人も含めて考えて変えていかなければいけないと思っています。

青野:大企業の社長なんて、びっくりするぐらい当事者意識ないですからね。

中野:自分は何年後には社長じゃなくなっているからと、ある意味、逃げ切れると感じている部分があるんですかね

青野:そうでしょうね。変えようとすればあつれきが生じてまた別の悲鳴が聞こえる。新しい悲鳴を出さないために、今起こっている悲鳴は聞かないことにしておこう。そんな感じですね。

中野:大企業の役員で考え方が変わるのは、娘が就職して「お父さんは全然わかってないみたい!」みたいに言われるケース。それが一番効くみたいですね。

宮崎:今後、青野さんは企業の代表と3人のお子さんのお父さんとして、中野さんはジャーナリスト、一企業の社員として、どういうことを発信してどういう取り組みをしていきたいと考えていらっしゃいますか?

青野:少子化の問題については、中野円佳さんはじめ、フローレンスの駒崎さんだったりワーク・ライフバランスの小室淑恵さんだったり、ファザーリングジャパンの安藤哲也さんだったり、ゲリラ戦をいっぱい仕掛けてもらっている気がするんです。本当はそれをやるべき政治のリーダーが全然動かなくて、未来が見えているゲリラリーダーがどんどん仕掛けてくれている。
僕はそこにすごく感謝していて、それゆえに、僕なりにできることをやりたいなと思っています。
僕は一部上場企業の社長という立場を利用して、できることを活動していきたいですね。

中野:私はまだゲリラリーダーにもなれていないんですが、自分も当事者であり続けたいし、「The・当事者」の人たちと常にコミュニケーションを取っていたいと思います。まあ、保育園でママ友と雑談するだけでも私にとっては取材になりますが。

私は今、チェンジウェーブという会社で社員をしていて、そこを通じて割と大企業の人事の人たちとも交流があります。また、厚労省の会議にも参加させていただいているのですが、政策として何を優先順位高く進めるべきという明確な主張を整理して、発信していきたいですね。
「現場の声」「企業」「政策」と3ヵ所をグルグル周りながら変わっていくといいなと。

モノカルチャーではいつか会社が折れ始める
ダイバーシティに取り組まなきゃ

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青野:この1年半ぐらい、働き方改革の波が来ていませんか?
ここ8年ぐらいの間、僕が言っていることはあんまり変わらないんですが、講演依頼がものすごく増えていますね。

中野:確かにそうですね。私もあちこち呼んでいただいていますが、講演した後に聴いた人たちがアクションを起こしてくれるかどうかが課題です。いつこの波がポシャっていっちゃうかなという懸念もあります。追い風は吹いていると思いますが、なかなか根が深い問題も多いので。

青野:まだまだ他人事感覚の人が多いんですよね。

中野:結局、大企業はなかなか変わらない。もっと周辺部分で、新しい企業がどんどん出てくる形で世の中が変わっていく方が自然なんじゃないかなあと。

青野:僕には1つ仮説があるんです。今は人口減少による採用難で、採用できないから企業を縮小せざるを得ない、だから女性も外国人も、パートタイムでも雇用していかなければいけない。正に人手不足によりダイバーシティに追い風が吹いているんです。

一方であまり困っていない大企業は、あまりダイバーシティに取り組んでいない。ただこれから何が起きるのかわかりませんよね。次にイノベーションの波が来た時に、ダイバーシティに取り組んでいない、モノカルチャーな会社は、ポキッと折れる可能性がある。僕の予想としては、今モノカルチャーでまだイケている会社が、ポキポキ折れ始める時が来る。おんなじような顔した人がいっぱいて、おんなじような働き方をし、中で派閥抗争していたら、それは勝てませんわと。

そしてポキポキ折れた会社がダイバーシティやり始めて、女性を活用し始める波が来始めているんじゃないかと。

中野:確かに働き方改革の会議で解雇規制云々というのもたまに出ますけれども、解雇云々じゃなくて会社がつぶれるという問題がありますよね。

青野:そうなんですよ、そこを必死に守っていますけど、そのうち守り切れなくなってくる。

中野:どういうふうにしたら、ポキッと折れる前にダイバーシティが大事だってことに気づいてくれるんですかね。

青野:やっぱり成功体験がないとね。僕がサイボウズを超ブラックベンチャーから切り替えられたのは、小さい成功体験をいっぱい見ているからなんですよ。例えば農業を副業にしている社員が農業を使ったクラウドをやって面白い事例を作ったり、在宅勤務の社員が出てきたおかげで、僕らのシステムで何が必要かが明確にわかったり。そういう小さな成功体験が積み重なっていくことで、もっと面白い人がいるとさらに面白いことできるな、というふうになっていく。

中野:モノカルチャーだと答えや意思決定は早いけれど、解が1本しか出てこない。色々な経験を持つ多様性のある人たちがいると、解答自体がいっぱい出てくる。

宮崎:青野さんは、家庭も、働き方も、会社もどんどん変えていったんですね。受けを楽しんでいらっしゃる。イヤイヤ受けていたら違う方向に行ってしまいますよね。

青野:でも、家事だけはイヤイヤで受けられないんですよね。何なのかなー(笑)。

飾らない言葉で、仕事や働き方、子育てについて語ってくれた青野社長と中野さん。仕事も子育ても、様々な環境・状況変化を伴うものであり、それに柔軟に対応できるかどうかが、可能性をどんどん広げていくのかもしれません。そして、「今日も生きていることこそが大切」と語った青野社長。今日も自分や家族や周りの人たちが笑顔で生きるためにこそ、子育てや介護、病気などのハンディのあるなしにかかわらず、多様な働き方が認められる社会が実現されるべきだと感じました。

青野 慶久さんプロフィール
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。
社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は14,000社を超える。
総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。
HP:サイボウズ株式会社
中野 円佳さんプロフィール
1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。金融機関を中心とする大手企業の財務や経営、厚生労働政策などの取材を担当。育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に通い、同研究科に提出した修士論文をもとに2014年9月、『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)を出版。15年4月よりチェンジウェーブに参画。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。
HP:株式会社チェンジウェーブ  DRESSコラム

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:宮﨑 晴美(インタビュー)・千葉 美奈子(文)

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