多くの出産現場を体験した助産師の私が、産後ケアの重要性を説く理由

「産後うつ」という言葉を聞いたことがありますか?

2018年の秋、国立成育医療研究センターが深刻なデータを発表しました。一昨年までの2年間の人口動態統計を活用し、出産後1年未満に死亡した女性について分析したところ、自殺が92人で最も多かったのです。次いでがんが70人、心疾患が24人などでした。

自殺した時期をみると、出産後すぐの1か月で10人、9か月で13人。1年を通して起きていました。専門家は多くが産後うつなどが関係しているとみています。

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(出展:国立成育医療研究センターHP

病院でも遅れている産後うつのケア

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産後うつは、周産期における精神疾患で最も頻度が高く、わが国では、産後3ヶ月以内に10~15%の女性が罹患しています。産後1ヶ月から1年以内に発症するといわれ、原因として生物学的要因では妊娠や出産による身体と心の変化、心理社会的要因では不安やストレスなどさまざまな因子が関係しています。

産後うつはママの疾患に留まらず、パートナーのうつ病、赤ちゃんとママの愛着障害、虐待などとの関連が知られており、予防と早期発見・治療が重要とされています。

 

産前は出産のこと、妊娠中の身体のこと、赤ちゃんの成長のことが気になり、なかなか産後のことまで考えられません。でも、産後はすぐにやってきて、それからは産後のことを考える余裕なんて全くありません。

「私は産後うつにならないから大丈夫!!」という言葉をよく聞くのですが、誰しもがなる可能性があるのが産後うつです。

 

日本では、産後は里帰りが一般的ですが、各自治体でも産後ケア事業が行なわれており、訪問や電話相談、1ヶ月検診時の相談窓口などがあります。最近は、助産院や産院での日帰りや宿泊の費用を補助する自治体もでてきていますが、ごく一部です。

それ以外には、産後ケアに特化した産後ケアセンターという施設もあります。産後ケアセンターは、日本では、経済的に余裕がある人、妊娠中から身体的・精神的に問題がある人、産後の体調が思わしくない人などが行くイメージがあり一般的に定着していませんが、アジアではわりと身近存在です。

例えば、台湾の中流階級程度の経済力の層は、妊娠がわかったのと同時に、産後ケアセンターを予約します。それぐらいポピュラーなものです。滞在期間は1か月ほどで、費用は結婚式一回分くらいかかると言われていますが、「人生に何回もあることじゃないから」と、産後ケアへの投資を惜しまないようです。

日本人は、無料あるいは補助金がでるなら利用するけど、お金をかけてまで産後ケアをするという意識があまり浸透していないのかもしれません。

 

私は、看護師として終末期看護を学び、その後、助産師となりました。

産院では1ヶ月に250人ほどの赤ちゃんが生まれており、スタッフ1人あたりの受け持ち患者数は9~10人。

産後の平均入院日数は5日間。ひたすら授乳とオムツ替え。

いつ泣くかわからない我が子の隣にいる、いつ寝ているかわからなくなっているママ。

退院後の赤ちゃんとの生活をイメージし、それに関する技術(主に授乳、沐浴、抱っこの仕方、休養の取り方など)を習得してもらうためのマニュアルのようなものがあり、それに沿って伝えていくが、そんな状態で伝えたことは、右耳から左耳に流れてしまう。

分娩病棟では、どんどん赤ちゃんが生まれ、ベルトコンベアーで運ばれてくるかのように産褥病棟は赤ちゃんでいっぱいでした。ひとりの助産師がたくさんのママたちをみるので、一人一人に関わる時間が圧倒的に足りません。産後の身体的・精神的な面に配慮した個別のケアを提供できていないため、ママたちが退院後の赤ちゃんとの生活をイメージできず「こんなに泣くなんて聞いてない。こんなに眠れないなんて知らなかった」と、退院後の外来で泣いていることも少なくありませんでした。

 

病院には専門家がいたから育てることができた。でも、家に帰ったら、どうしたらいいいかわからない。育てられない。

 

私たち助産師は、医療から生活へと繋ぐ橋渡しができていなかったのです。

退院後、このママは赤ちゃんと生活していけるだろうか。もっと前に、生まれる前に、産後(退院後)のことを考えられたら、ママたちの不安も少なくなるのに…… と思う日々。

私は、産後の母と子が最も近くにいる場所で、歯痒い思い抱きながら、退院の見送りをしていました。

 

そんな中、ある出来事がおこりました。助産師として勤務していた産院の患者さんが、退院して1週間しないうちに、わが子とともに飛び降り自殺をしました。母子だけでなく、実家で実母のサポートを受けている方でした。

私は、その方を受け持ったことはなく、そのニュースを他人事のように聞いている自分がいました。感覚としては、素通りしただけ、すれ違っただけ。「何もできなかった」というより「何もしなかった」という思いでした。

家族や周りの人々が正しい知識を持って産後をサポートできるように

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私自身も、里帰りをして実母にサポートしてもらいました。

元々、なんでも相談できる・言い合える関係性だった母と私。助産師とはいえ、私は初めての育児にとまどうことが多く、楽しさより不安が多く、自信なんて全然ありませんでした。そんな私に母は「自信をもちなさい! 頑張りなさい! 助産師でしょ!」と声をかけてくれました。きっと、母は励ましてくれているつもりだったのでしょう。

でも、それは産後の私を追い詰めていきました。

 

待ち望んで生まれた子が、目の前に自分の腕の中で寝息を立てているのに、私は、すぐ死にたいと思ってしまう。寝不足のせいか、哺乳瓶のフタが閉められないことが何度かありました。

その度に、

「なんで私は、こんな簡単なこともできないの? こんな私が子どもを育てていけるの?」と自分を責めました。

緊急帝王切開で生まれた我が子は退院してからも呼吸が浅く弱い気がして、いつも激しく泣いている。ゼーゼーいってる。

「この息の仕方は正常なの? 私は、何か見落としてない? 大丈夫?」

生まれてからずっと、私の肩には、命を預かる責任の重さがのしかかっている気がしました。我が子が可愛いとか、育児が楽しいとかそんなことを思う余裕はありませんでした。

ただただ、我が子に生き続けてもらうために、オムツを替えて、抱っこして、おっぱいをあげて、寝かしつけてを繰り返す。

ただただ、我が子に生き続けてもらいたいために。

 

そんな私には「自信をもちなさい! 頑張りなさい! 助産師でしょ!」の声かけは、「もう、十分頑張っている。何を頑張れっていうの? 自信なんて持てないよ。もう、死んじゃいたい」そんなことを脳裏にかすめさせる呪いの呪文のようでした

可愛いと思えるようになったのは、2ヶ月過ぎてからで、それまでのことはあまり覚えていません。目の前にある命を守ることで精一杯でした。

 

どんな行動や声掛けが望ましいのか、私自身は助産師だからわかっているけれど、実際に声をかけてくれるのは、家族やその周りの人たちなのです。

実母が一緒にいてサポートしてくれるなら大丈夫! そう思われがちですが、誰かが側にいればいいってもんじゃない。側にいる人の産後うつに関する知識が乏しければ、サポートしているつもりがママを追い込んでしまっているかもしれません。

 

そうでなくとも、ママ自身が慣れない育児に「泣き止まない。なにをやってもうまくいかない。私はダメな母親だ」など、どんどん自分を追い詰めて行きがちです。産後うつについて知っていれば「私、いま追い詰められているのかな。これ、産後うつなのかな」そうやって、自分で立ち止まる手助けになるかもしれません。

 

そんな思いから産院を退職し、産む前から知ってほしい産後の自分ケアなどについて、妊婦外来や地域でのお話し会、ブログなど情報発信を開始しました。現在は、7か月になる長男の育児に奮闘中で、「世界のママが集まるオンラインカフェ」のお手伝いをしています。(こちらに関しては、いずれ連載で書く予定です。)

 

出産というものは、子どもの誕生だけでなく、新しい家族の誕生、子育てのスタートでもあります。

産む前から産後の生活をイメージし、心も身体も疲れきった産後の自分をケアする準備ができていれば、自分自身の余裕ができるかもしれません。

産後の自分をケアするためには、多くの人に子育てに関わってもらうことが大切です。自分の家族だけではなく、様々な人に助けてもらいながら、家族がハッピーになっていく。そんな家族が増えるように、情報を発信していきたいと思っています。

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産後うつの知識をはじめ、産後の自分ケアについて、ママ自身や家族だけでなく、様々な人を巻き込んで考えていけるといいなと思っています。

具体的な産後の自分ケアについては、次回からお伝えしていきます。

よろしくお願いします!

助産師の産後のケア現場レポ

伊藤 麻衣子

伊藤 麻衣子

助産師兼受胎調節実地指導員

産後うつで患者を亡くした経験から産前教育の必要性を強く感じ、産後うつを減らすために活動中。ブログ『新米ママ(姉)と助産師(妹)GOGO育児』http://ameblo.jp/go-go-ikujiでの情報発信や『世界のママが集まるオンラインカフェ(https://peraichi.com/landing_pages/view/sekamamacafehp)
で0歳児のママのおしゃべり会(埼玉県の小川町店)を開催している。プライベートでは2回の流産を経て、出産。6ヶ月になる息子の育児に奮闘中。東京お台場から埼玉県の小川町に引っ越し、ゆったりとした町の時間を家族3人で楽しんでいます。

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